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【昭和的家族】天才かも知れない

私が小学校に入る少し前の頃と思う。当時『絵描き歌』というのが流行っていて、その中でも特に私は『かわいいコックさん』というのが一番のお気に入りだった。「棒が一本あったとさ、葉っぱかな、葉っぱじゃないよカエルだよ。カエルじゃないよアヒルだよ。6月6日雨ザーザー降ってきて…」と歌いながら絵を描いていくと、アヒルのコックさんが描ける。広告の裏側に何も印刷が無い紙を見つけては、私は何度も何度も同じ歌を歌いながらコックさんを描いていた。

ある日、そんな私の姿を見つけた父母のどちらかが、
「この子は絵を描くのが好きらしい」と、思ったらしく急に3人兄弟のうち私だけを連れて、近所にあった雑貨屋さんに連れて行ってくれた。当時そのお店には主に菓子パンやお菓子などが置いてあったのだけれども、それ以外にも生活一般に使う色々な雑貨が少しずつお店の中にぎっしりと並べられていた。
「なんだかこの子は絵を描くのが好きみたいなんですよ」とかどちらかの親が説明している中で、私は何のことなのかな?とすっかりとは理解できないまま、それでも特別に何か買ってくれるらしいということで少し緊張してきていた。
「まぁ、こんな小さいのに絵を描くのが好きなんて、天才かも知れないね」とだいぶ大げさに思うくらいの誉め言葉をお店の人に冗談交じりにいただきながら、出してくださった画用紙の束と色鉛筆だか色付きのペンのセットのいくつかと親の顔を見比べる。
「好きなのを選んでいいよ」といつもあまり聞かないような親の言葉に、一番小さめの色鉛筆のセットと画用紙の束を選ぶ。
「そんなんでいいの?」と聞かれて、私はうなずき、その後綺麗な紙袋に入れてもらった自分で選んだお絵描きセットをしっかりと腕に抱えて家に戻った。

しかしながら、広告の裏にのびのびと思い切って書く時と違って、真っ白で大きな画用紙にアヒルのコックさんを描くのは、思い切りがいるものだった。なんとなく期待に応えた作品にはならなそうな、小さめなカラフルなコックさんをこじんまりといくつか画用紙に描いてはみたものの、私はそれからあまり『かわいいコックさん』のお絵描き歌で絵を描くことは無くなってしまった。

今思うと、同じようなことが他の兄弟にも起こっていたらしく、例えば兄は「英語の才能があるかも知れない」ということで、まだ小学生の低学年の頃に、当時では相当高かったのではないかと思う基本の日常英会話のテープがたくさんセットになっていた音声教材とそのテープを再生するためのカセットプレイヤーを買ってもらっていた。数年後、ほとんど使われていないその埃がかったカセットプレイヤーを私は見つけ、おもちゃ替わりに繰り返し聞いて発音練習をしてみることとした。おかげで、テープのレッスン1の朝昼夜の挨拶は、テープの発音通りに発声することができるようになっていた。そのうえで、いつもレッスン1の最後の日本語で「さぁ、一度テープを巻き返して最初からもう一度繰り返して聞きましょう!」という言葉に従って、レッスン1しか聞いていなかったので、それ以外のレッスンの会話の学習には進めなかったが、おかげで少なくとも”英語を学ぶ事が好き”というその後の私の志向の基盤にはなった。

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