蚊取り線香





夏の昼下がりに少し微睡んだ。

網戸にしたベランダから吹く風は

夏の暑さを少しだけ乗せていた。


それでも、心地が好い。

季節で吹く風の中で一番好きかもしれない。


呆っと寝転がって風を受ける。

意識は眠りの中に落ちていった。



次に目が覚めると、日は傾き始めていた。

白色の光は黄金を帯びて

このまま朱色に落ちていくのだろう。


ノスタルジックな色に世界が変わる。

止まらぬ時間を少しだけ残念に思いながら

外を眺めた。


ふと、風に乗って流れてくる匂い。

なんだっけ…。

ああ、蚊取り線香の匂い。


何処かの家で焚いているんだろう。

風は複雑に様々な場所を通ってくるから。


独り暮らしの部屋では焚いてなかった

蚊取り線香が、実家のことを思い出させる。


今年の盆には帰ろうか、そんなことを考えた。

太陽はそろそろ沈んでいく。



             「蚊取り線香」

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