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読書日記

『アテネのタイモン』が面白かったので、家の本棚にあった『ヴェニスの商人』を読みました。

友人(バサーニオー)のため、自らの肉を担保にしてお金を借りた貿易商のアントーニオー、お金を貸したシャイロック、この二人のやり取りが話の根幹となっています。また、バサーニオーとポーシャの婚約や、ロレンゾーとジェシカの恋愛などのエピソードがかなり際立っており、戯曲を読むのに慣れていないせいでしょうか、どこに焦点を当てて読んだらいいのか、初心者には分かりづらいところがありました。


もっとも目を惹く登場人物は、シャイロックです。彼はユダヤ人であり、かつ金貸し商人なのもあって、他の登場人物たちからは非難の的となっています。この二つの要素は、キリスト教徒からすると「悪」であるようで。シャイロックは彼らから人間の扱いをうけていません。そして、それがまかり通っています。こんな時代もあったのだなあ、と勉強になりました。

さて、アントーニオーは、当てにしていた自分の財産が海上で水泡に帰し、シャイロックにお金を返すことができません。よって、裁判が開かれました。積年の恨みがつのるシャイロックは、この機会に復讐してやろうと、アントーニオーのお肉を頂戴する気満々です。そんな彼に対し、法学博士に扮したポーシャ(バサーニオーの妻)が説得を試みます。正義(この場合は証文の内容に従うことか)にも慈悲が必要だ、と。

正義の一本槍では、われわれ一人として救いに与(あずか)るものはない。

p111

ポーシャの慈悲についての解説には胸をうたれました。しかし、もし、アントーニオーとシャイロックの立場が反対であったなら? 一も二もなくシャイロックの肉は取り除かれていたことだろうな、という考えが脳裏をかすめます。

最後はいちおう誰も死に至ることなく、めでたしめでたしで話を終えます。が、読み手の心に残るのは、歪んだ勧善懲悪の薄気味悪さ。はたして善とは何なのか? いまいちど考えてみる必要がありそうです。

ずいぶん否定的な感想文になってしまいましたが、あくまで読書感想文であり、キリスト教や、キリスト教徒の方々を批判するような意図はまったくありません。
時代は変わったのだな、ということがよくよく分かる戯曲でありました。


⭐︎


p129、ジェシカとロレンゾーの音楽についての会話は泣くほど美しいものでした。

前半、ポーシャの婚約相手を選ぶための、三つの小箱のエピソードも読み応えたっぷりでした。

シャイロックを悪役にするためには、彼の商売によって破産した人や、人生を棒にふった人などの登場が必須であると思われます。

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