お子様ランチを作ると見えるもの 〜双子の生活28〜
2024年1月27日
料理は趣味だ。
俺は昔から多趣味なので、中には「そういえばなんでこれにハマったんだっけ？」と思うような趣味もたくさんある。
しかし料理ははっきりと覚えている。なぜなら仕方なく始めた唯一の趣味だからだ。
2015年の3月下旬。
出社日の1週間前に内定した俺には、引越し作業をする暇なんて1秒たりともなかった。不動産屋から最速でマンションの鍵を受け取れるようにしてもらったが、それでも出社日前日が最速だ。なのでその日に京都の実家から高速バスで東京へ向かい、池袋の不動産屋で鍵を受け取り、何も無い家で寝て、翌日出社している間に、同行してくれたPNRAと休日だったターチに頼んで最低限の家具購入だけしてもらった。
実家から持ち込んだのはリュックひとつに最低限の衣類と、大学で使っていたMacBookと、肌身離さず持ち歩きたかったイリヤの空UFOの夏。
娯楽らしい娯楽は何も無い。
MacBookはバッテリーがイカれて起動できる日の方が少なかったし、イリヤの空は文字通り手垢が付きまくるほど読み込んでいる。
3大欲求を趣味にしようにも、ADという業種は最低限の睡眠時間すら与えられない。なんなら仕事が遅すぎて帰る頃にはコンビニ以外に開いている店がない（帰れる保証もない）。
そんな俺に出来ることは、数少ない休日に食材を買い込み、いつでもコンビニ弁当以外のご飯を食べられるように準備すること。仕事から無事に帰宅できた日は、どれだけ疲れていてもその準備物で自炊をすること。
こんなの娯楽でもなんでもない。でも当時はそれが心の拠り所だった。
歳食うとしみったれた話が長くなる。今書いてて自覚してしまった。
夜勤から帰宅してPNRAはすぐに卓球ラケットのラバー貼りに取り掛かっていた。届いてから貼りたくて貼りたくて仕方なかったらしい。
この日特に予定らしい予定が無かったので、好きなことにウキウキしながら取り組むPNRAを見て少し羨んだ。今日は何かクリエイティブな、新しいことをしたい。
一度寝て夕方に起きた。晩飯を作ろうと思案をめぐらせる。最近彼女が料理の様子をビデオ通話で見せて欲しいと言っていたのを思い出す。提案してみる。
「晩ご飯作るとこ見せるけど何作ればいい？」
「お子様ランチで」
お子様ランチ一丁入りました。
お子様ランチは難しい。
少し自炊をしたことのある人間なら誰でもわかる。品数が多く手間のかかる品が多く、それらを自炊で作るメリットなんて無いに等しい。
実際俺は7年前にPNRAを笑わせるために作ったのが最後であり、それもかなり簡略化したお子様ランチだった。
自炊を趣味にしてまもなく10年になろうとしている。本気で取り掛かろう。まずは皿とおもちゃの調達だ。
ざっくりとメモをしてスーパーを駆け回る。
本気で作るのだ。これまでの自炊料理の経験を詰め込み、俺の思うお子様ランチを。冷凍食品なんて基本使わない。一から作ってみせる。レシピを調べながらでは遅い。集中しろ。作りながらメニューを構築する。儂ならそれが出来るはずだ。
お子様ランチをお子様ランチたらしめているもの。国旗だろう。これは外せない。
デイリーポータルZで「たいていのものをくっつける能力」と紹介されたスーパーX。東方の能力かよ。
ちいかわの旗を作る。老若男女だれでもちいかわが好きだと最近学んだからだ。PNRAはむしろ嫌いと言っているが。
たこさんウィンナーは必須だろう。
しかしこれは地味に見えてある程度手先の器用さと包丁の切れ味が必要だ。先週包丁をしっかり研いでいた。この日のためだったのかもしれない。
ハンバーグにはナツメグを入れるなんて、昔は知らなかった。ハヤテのごとくでヒナギクがハンバーグを作るシーンでその存在を知り、7年前に初めて作った時にその意味を理解した。
じゃがいもをそのまま炒めたら中まで火が通る前に焦げてしまう。ある程度切ったらまずはラップをしてチンした方がいい。これはいつ学んだことだったか思い出せない。思い出せなくともこの身体に染み付いていて、無意識にそうしている。
名古屋のエビフライは大きい。
それはシータイガーというとても大きな種類のエビを使っているからだ。数年前名古屋で食べたあと、移動中に読んだウィキペディアで学んだことだ。
揚げ物は基本170°C。ものによって多少前後するが、基本それで失敗しない。コンビニバイトでフライヤーを作る時に知った。「ポテトは2回揚げた方が美味いねん」と、ルールを守らず2度揚げしていた主婦の梅田さん、元気されてますか？
取り上げる前に火を消す。ADHD気味の俺はこうしないと火をかけっぱなしにしてしまう。過去何度かそれをやらかし九死に一生を3回ぐらい繰り返している。
盛り付け。
これだけは今までの人生で気にしたことがない。
俺の飯は自分で食べるためのものであり、人に振舞うために培った趣味ではないからだ。
頭をひねりながら皿と格闘する。
………………
…………
……
完成した。
調理時間は1時間40分ほど。
サラダとミックスベジタブルのみ既製品を流用した。
目算を見誤り少し右寄りに配置されたお子様ランチ。
でもこれでいい。不完全な部分を残した方が次への課題に繋がる。またいつか挑戦する日になんとかすればいい。
お子様ランチを作ると見えるものがたくさんあった。自分の自炊人生と向き合うような、厳かなプレッシャーを感じながらフライパンを振ったような気がする。
【今回忘れたこと】
・おもちゃの車を皿左下に配置する
・レモンのクシ切りを添える
・勇者の剣つまようじをウィンナーに刺す
・PNRAに言われていた、朝作った肉じゃがをなるべく食べ進めること
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