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山小屋暮らし

山小屋で働き始めて1ヶ月が経つ。

山小屋の住み込みはこれで3度目になる。毎年夏になると、大学の休暇を使って山に籠る。

山の上と地上とでは、暮らしは大きくちがう。

山の上にないもの

山の上にはないものがある。

最も顕著なのは。稜線上の小屋の周りには川も池もない。あるのは乾いた砂礫だけ。あとはハイマツなどの高山植物があるだけ。

生活に必要な水はほとんど全てが“雨水”頼りだ。雨水をタンクにためているため、乾季が続くと大きな打撃になる。今年の梅雨はとても短かったから、2週間お風呂には入れないかもしれないと脅された(普段は5日に1回)。お風呂はまだいいとして、飲み水や掃除の水は必要不可欠だ。

本当に水がなくなったら、どうしようかと考えることは日常生活ではあまり体感できないスリルだと思う。

二つ目は食べ物だ。

と言ってもお客さんに出す分やスタッフが食べる分には十分な食料がヘリコプターによって運ばれてくる。(3週間に1度)

ただ、自分が好きなものやその時食べたいものが常日頃食べられる環境ではない。スーパーもコンビニも畑もない。上がってきた食料をみんなで配分しながら食べるわけだ。

私は山に来るとアイスクリームが食べたくなる。アイスクリームは上げる時に溶けてしまうので滅多に食べられない。下山したら、美味しいアイスクリームを食べよう。

三つ目は寝る時間。スタッフが少人数なのもあり、朝の当番の周りが早い。朝の当番とはお客さんの朝ご飯やスタッフの朝ご飯を用意する人たちのこと。出勤時間は午前4時。夜明け前、虚な目を擦りながら、仕事をはじめる。朝の当番は2日に一回のペースでやってくる。今日は7時起き、明日は4時起き。その繰り返し。

寝る時間早い日はそう疲れない。しかし、週末などの混雑している日はそうもいかない。寝て、数時間後には朝ごはんの準備で出勤だ。そしてそんな日々が続くと寝た気になれない。。

寝る時間がこんなにも愛おしいなんて。


素晴らしく不便で素晴らしく美しい

山の上はそれはそれは不思議な場所。毎日綺麗な景色が見えるし、散歩は稜線歩き。空気は綺麗で自然豊か!夢のような毎日。

だが、住むにはやっぱり不便も大きい。無いものは無いのが当たり前だ。駄々をこねても出てこない、買えない。日々私は無限の中で生きている(本当は全て有限だけど、蛇口から出る水やいつまでも無くなることのないスーパーの陳列棚の商品は無限を感じさせる)。一方、ここは有限の世界。


水も底が見える。

悪天でヘリコプターが飛ばなければ、ある食材でお客さんと自分達を養っていかなければならない。

ないものはない。

ある分で、あるもので。


限りあるものを大切にする眼差しは、山の上でも、そうでなくても私にとって良い学びになった。

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