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夜に他人と本を読む

謎の古本屋カリカリブックス(仮)

伊那市駅の前の通りに、アーケードの商店街がある。駅から続く、アーケードの下を歩いていくと「カリカリブックス(仮)」と書かれた、みどりの小さな看板が見えてくる。

カリカリブックス(仮)は大枠としては古本屋さん。ただ、ただ本を売っているお店ではない。学生や卒業生が自主的に運営しているお店。街のコミュニティスペースとしても機能していて、町の小中学生、高校生、おばちゃん、おじちゃんなど、さまざまな人が訪れる場所。そろばん教室になったり、古着屋さんになったりたり、はたまたジャズライブが始まったり、送別会の会場にもなったり。カリカリブックスの名前に(仮)が付いているのは「まだ完成じゃないのよ、どうにだってなるのよ、仮だから。」という意味らしい。素敵な名前だと思う。

夜の読書会があると聞いて

2年前くらいから、私も気ままに通っているが、カリカリの謎は深い。そんなカリカリブックス(仮)で先日「夜の読書会」が開かれると聞きつけ、行ってみることにした。

19時、そろそろ日が沈んで気温も下がるころ。上着の温もりが皮膚から伝わる。伊那市はカラッとしているからじめじめ蒸し暑さはなく、夜は時々驚くほど寒い。もう6月だと言うのにね。

店内にはそろばんの先生がいて、どうやら教室がまだ終わっていないようだった。しばらく外を歩いて待つことにした。

15分くらい経ってから戻ると、読書会の準備が始まっていて、さっきまでお店を照らしていた明かりが消えている。灰色の暗さだ。

ぱちっ。コンセント式のランプが光った。橙色の優しい光がちゃんと本を照らすようになっていて、おお、これはいいなぁと思った。

「飲みものはどうしますか?」シェアハウスに一緒に住んでいて、お店を切り盛りしている先輩がにこにこコチラを見つめている。「じゃあ、ホットミルクでお願いします。」と答えた。先輩はまだ、にこにこして「かしこまりました。」と私に向かって言った。続けて「好きな本を選んで読んでね。あ、持ってきているのがあればそれでも。」そう言って、お店の奥の方へ行ってしまった。

私は本を持ってこなかった。ここで前に見つけた、どうしても読みたい本があったから。アフリカを歩いた記者の方が書いた本で、民族の暮らしや歩いた日々のことが日記のような、手紙のような口調で書かれていた。


”誰か“いるところで本を読みたかった

本を読むのは簡単なときと、難しい時がある。簡単な時は、するするとページがめくられて、時間は川のよう。

難しい時は目が行ったりきたりして、定まらない。時間は湖のよう。

最近本、読んでないな。読みたい。そう思っていた矢先の会だった。一人で読むのもいいけれど、誰かが読んでいる傍らで私も読んでいるというのは心落ち着く。誰かがページをめくる音が、時計の秒針のように思える。

夜、薄暗い部屋でランプをつけて、大人たちが本を読む。ありそうでない。ずっとこう言う場所が欲しかった気がする。



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