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2024年上半期のアルバム6選 -年々切なさが愛おしい-

 歳を重ねていくにつれて、どうしても思考や嗜好が硬直化しがちになり、新しいものを受け入れにくくなってしまうと思い、最新の情報に触れるようにしている。「温故知新」が人生のモットーだ。私の場合、研究者として自身の専門分野周辺の情報はもちろんキャッチアップするし、趣味の音楽に関しても様々なジャンルを聴くように心がけている。
 いわゆる音楽好きと呼ばれる人々に比べると、音楽を徹底的に掘り下げるタイプではないが、実際に様々な音楽を聴いてみると、世の中には素晴らしい音楽が溢れすぎていて感動するばかりである。今回は、2024年上半期に聴いてきたアルバムの中で、特に良かったと思う作品を6つ紹介したい。


Bring Me The Horizon / POST HUMAN: NeX GEn

 全音楽を通して上半期で最も衝撃を受けた作品。5thアルバム『That's the Spirit』で脳天を撃ち抜かれて以来、ブリング・ミー・ザ・ホライズンによって私はメタルの沼へと導かれてきた。オルタナティヴ・メタルにして切なさを感じさせる歌詞とメロディは、このアルバムでも健在だ。エレクトロニコアの要素もふんだんに入っており、曲作りへの旺盛さを感じる。今年のサマーソニックではヘッドライナーを務め、国内でも人気の高いバンドになって嬉しい限りである。諸事情でライブには参加できないのが誠に残念だが、近いうちに足を運んで全身に彼らの存在を浴びてみたい。


Age Factory / SONGS

 邦楽として上半期最も衝撃を受けた作品。パンクともハードコアとも形容しがたい、泥臭いロックでありながらどことなく切ない雰囲気が漂っている。SUPERCAR の『スリーアウトチェンジ』が青春の諦念を表しているとすれば、Age Factory の『SONGS』は青春の秘めた闘志を表していると言えよう。詩の語りを重視する感じは、My Hair is Bad の椎木知仁氏のような音楽への情熱を感じさせる(実際にボーカルの清水エイスケ氏とは仲睦まじいようである)。アルバムには明確な起承転結があると感じており、特に『SONGS』はタイトルチューンとしてその勢いが如実に現れている。終盤の『ALICE』では、yonige の牛丸ありさ氏がゲストボーカルに招かれており、私も彼ら彼女らとほぼ同じ世代なので、どうしても親近感を覚えずにはいられない。


yonige / Empire

 先ほど少し紹介した yonige の新作。彼女たちをロックの小分類にカテゴライズするのは難しいほどに、実に多彩なジャンルを横断的に渡り歩いている。『Super Express』や『walk walk』ではロック色が強いながらも、『神様と僕』はしっとりとした曲風となっている。メジャーシーンにいながらインディー・ロック的音楽を奏でていく彼女らの姿勢を応援したい。


First Love is Never Returned / POP OUT! Ⅱ

 今年の Spotify が発表した「RADAR: Early Noise 2024」にも選出されており、勢いのあるミュージシャンだ。彼らは80〜90年代のシティ・ポップを参照しながらも、その延長には無いオリジナルな音楽へと昇華している。世界的なシティ・ポップのリバイバルの中で、私はどうしてもシティ・ポップの渦の中へ入り込めずにいたが、彼らのお陰でようやく真っ向から向き合えるようになった気がする。


離婚伝説 / 離婚伝説

 先ほど紹介した First Love is Never Returned と同様、「RADAR: Early Noise 2024」に選出されている。ミュージシャン名こそ衝撃的だが、心にすっと入ってくるシティ・ポップ様の音楽を奏でながら、歌声は非常にメロウでとろけそうになる。『愛が一層メロウ』ではサビでひたすら「愛が一層メロウ」と連呼されているが、それを自然に感じさせる美学が彼らにはある。


椎名林檎 / 放生会

 彼女のまとう雰囲気や質感は一貫性があり、いつの時代にいても鮮やかな華を飾っている。今年の春クールドラマ『Destiny』の主題歌として用いられた『人間として』は、『目抜き通り』で感じさせたような上品で都会風な曲調がいじらしい。偶数番目の曲には女性ボーカルをフィーチャリングしており、特に新しい学校のリーダーズとコラボした『ドラ1独走』という曲は、歌謡ロックのような雰囲気で、昔懐かしい感覚がする。彼女の言葉遊びは『私は猫の目』でも見られており、様々な観点で深みのあるアルバムだ。


終わりに
 なるべくジャンルレスに聴きたいと願いつつも、結局大好きなロックの中で様々なジャンルを模索している状況で、やはり自分はロックがずっと好きだったんだなと再認識することができた。一方で、シティ・ポップ様の音楽を真っ向から受け入れることができたのは、個人的にも驚きである。これからもいろんな音楽を聴いて味わっていきたい。

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