見出し画像

<無為フェス#6>BUoYにて、浮き標す、音。

プカプカ プカプカ
ビーコン ビーコン
ギザギザギザギザギザ
ホワ~〜~〜~〜~ン
ドッカーーーーーーン !!!


18世紀末 バスクラリネットの起源となる楽器がフランスとドイツで誕生
1962年5月 国鉄三河島事故 / 地下鉄日比谷線 南千住~北千住間開業 / 南千住に東京スタジアム開業
1964年 現在BUoYが入居するビル竣工 / 千住火力発電所(お化け煙突)解体 / モーグ・シンセサイザー発表
1969年5月 筆者誕生
2017年 BUoY開場


そして2022年4月12日の午後、この場所北千住BUoYにてシンセサイザーとバスクラリネットを携え、私は即興演奏を行ないました。
小林健二さんの美術作品 “1965年3月27日午前” に倣って行為の内実を封印しようと思っていたのですが、やはり自己顕示欲求には勝てず「見て見て! 聞いて聞いて!」と結局のところ以下に書き述べていく次第です。あらら。

・バスクラリネットを吹いてみた
まずは空間の中心で吹き、次には歩き周って壁や隅に音を反射させるように吹き鳴らし、室内の反響が付加されたバスクラリネットの音を楽しみます。私はカラオケのエコーがかった自身の唄声に酔い痴れるオヤジそのものです。

・“Milky Way”ごっこ
Weather Report というバンドの “Milky Way” という曲が有りまして、それは開放されたピアノの弦にサクソフォンの吹音を共鳴させ「ほわ~ん」とした音を生み出して曲を編むというものなのですが、BUoYにピアノが有ることをその場で知った私は早速それを試してみました。
なるほど、確かにバスクラリネットを吹いた音の高さに従ってピアノの弦が次々に共鳴し和音が形成されていきます。しかし……もっと共鳴するモノを私はこの空間で見つけ出してしまったのです。それは……

・B2F下水槽
以前のBUoY note記事を読んでマンホールの所在を知っていた私は、その穴の響き具合を確かめるべく、数ヶ所あるマンホールをそれぞれ踏み鳴らしてみました。その結果、入口から対角線を進んだ奥にある穴が一番長く深い響きを湛えていると判定。更に近くの床から出ている細い配管の周囲がひび割れ剥落して出来た孔を発見し、その奥に潜む大きな下水槽と思しき暗い空間の存在を感じ取ったのです。
その穴に向かって立膝をつき、バスクラリネットのベルを近付けて吹くと、音が水槽内で反響しまくって持続し、先程のピアノよりも大きく深くそして “ヤバい” 響きが足元から「うわ~ん」と……。これ、見た目や状況も相当ヤバいですね。

・シンセサイザーを鳴らしてみる
ここまで遊んでいて思ったのは「オレがこの場で演奏しているのではなく、この場にオレが演奏させられている」ということです。しかしそれは決して隷属的で不快な感情ではなく、寧ろ自身の存在を許可されたような安堵感の如き心地よいものでした。
ふと気付けば滞在期限まであと120分。持ってきたシンセサイザーも鳴らさなくては勿体ない。さて、とセットしたのは YAMAHAの reface CS というモノ。電池でも作動しスピーカー内蔵ということで、災害避難時にはこれを持って逃げようと思っていました。そう、今回の企画参加には「災害時にどれだけ音楽家として振る舞えるかのシミュレーション」という意図もあったのです。しかし、これに関しての結論は「機材持ち出し避難は重くて無理……」 哀しいけど楽器は全て家に置き去りとします!

“もしも楽器がなかったら (略) そらいっぱいの 光でできたパイプオルガンを弾くがいい” (宮澤賢治)

気を取り直し、今現在電気エネルギーを有効に使える状況への感謝を以て、シンセサイザーと向き合います。直径3cm×2個のスピーカーよ、鳴り響け! 歪み上等 !!

・影絵ごっこ
“音を発してそれを聴き取りその音に導かれてまた次の音を発するという行為”が私の即興演奏の流儀です。未熟者につき電子的補助装置を用いて行うことが多く、音を遅延させて自身のリアルタイム演奏に重ねることが出来る装置(ディレイ)を多用しており、今回も使用しています。
ひゅうっと音を放り投げて戻って来るまでの間が、その日その時その状態のリズム/グルーヴを生み出して、同じ8秒間の内で5拍子のフレーズが出来る時もあれば22拍子(!!)のフレーズが出来る日もあり、恣意的にフレーズを切り取り記憶する装置(ループ・サンプラー)に比べて不確定要素の強いところが醍醐味なんですね。
そんな自身の音楽的行為って「音による影絵遊びのようなもの」なのかな、と、ふと壁に映る自分の影の存在に気付いて思わされました。
影(音)を自分の側に引き寄せて身体一つで成り立つ表現力を獲得すべきか、影(音)を更に客体化して自身から切り離すべきか……永遠の課題です。今の中途半端なままでも最高に楽しいのですけれどね!

・バイバイ言えなくても
滞在終了まで一時間を切り、最後は自分の好きな音を出して締め括りたいと思うのは人の常。我が頭脳と指先は無意識に完全五度の音程で音を重ね始めます。
こうして出来た和音は、どこまで音量を上げても苦痛に響かず、それどころかもうフル10で永遠に鳴り続けて欲しいと願う程の力を持っています(あくまで個人の感想です[笑] )。 Come on, Jimi !!

そして更にその音を根底から揺さぶるようにバスクラリネットで低い音を付加すると、今現在熱狂している意識は突然過去にヴェクトルを向け、自分が生まれる前の出来事/記憶以前の記録(すなわち歴史) までもリアルに感じてしまうような時流喪失感の中で浮遊し始めます。況してやこの昭和四十年代の雰囲気を色濃く残したBUoYの地下空間(そしてこの街千住界隈)に身を置いている状況とあっては尚更のこと。

“もっと何か大きな世界、自己中心でない大きな人生、これは歴史といってもいいですが、そういう大きなものの中に取るに足らない自分を生かす手だてを見出そうとする努力、これは芸術上の努力だと思うんです” (庄野潤三 昭和三十六年三月)

私の音楽的営為が何らかの結果を出したことは現在までごく僅かです。しかしその営為は我が人生ゲームの終了時まで続く長い過程を巡り行くための原動力となり、沢山の良き人との出会いを導き出してきました。今回のBUoY無為フェスへの参加もその一つです。

無為であるということは、全てが許されているということ。作り上げるのも、ぶち壊すのも、怒りも、喜びも、前進も、停滞も、全てOK。
そして、実は無為なんてものはこの世の中には存在しないってこと。何もしてないヒマな状態だって、やがて何事かを為すための貴重な充電時間なんだ、と。

”その日が来れば 分かるさ” (荒井岳史 / the band apart)

最後にマンホールを一蹴して、この稀有なる時間に別れを、空間には再来を告げます。ほな!

DJPQ0523 (aka DJ Peaky)
1996年頃より“DJ Peaky”名義でターンテーブルとレコードを用いて音楽活動を開始。その後 “経堂即興楽団” “時々自動” “zuppa di pesce” “サンガツ” “hologram” “hnywo”に参加。
2004年、代々木off site にて 、二台のギターと二本のクラリネット、一本のバスクラリネットのための “Music for 1 hour” (嵐直之、直嶋岳史、伊田智沙都、戸井安代、西村浩介) を発表。
2006年、Commune Disc よりソロ・アルバム “In the Blanket”を発表。
現在はakane hosaka との “Kawashima Circulation Bus Line”、イトケン、戸井安代との “Itoken trio” で活動する (どちらも長期休暇中)。
noteにて、“DJPQ0523”名義で執筆中。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
※ BUoYスタッフより※
「無為フェス」詳細については以下の記事をご参照下さい。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?