5-1. インプットってなんだってんだ
何かを表現するずっと手前の「インプット」という言葉は良く知られていますし、イメージもなんとなくあると思いますが、その「質」についてはあまり語られていません。
(『1.君に俳優を志すのをやめさせたい』の連作ですが単独でも完結しています)
作曲をしようと言うのに、まず、音楽が好きか、どんな音楽があるのか、知っている必要があります。
ビートルズが下済み時代、「世界一罪深い街」というコピーを待つレーパーバーン地区のバーで一日8時間以上、12時間にわたる演奏をしていたそうです。演奏時間が長い為「恐ろしい数の曲を覚えなければならなかった」と言います。他人の曲を大量にインプットをしていたという事ですね。
こんな話をすると役者にとってのインプットは、いい「ドラマや映画作品をたくさん見なさい」のアレかと思われるかもしれませんが、違います。ビートルズは曲を覚えて、演奏していたのです。
脚本を書こうとする時、うるさく言われる事があります。「映画をたくさん見なさい」有名作品、古典作品を見ていないとフィクション業界人を「本当に仕事やる気あんのか?」と心底がっかりさせます。60代前後の脚本家の人達に古い戯曲を読んでないのがバレると、それはもう、全裸で歩いていて恥ずかしくないのか? くらいの表情で見られます。興味が湧かない私の場合、どうしても、の最低限だけ確認したあと「教養がなくて」と先に自ら晒す事でダメージを減らしてました。もちろん、映画やドラマを作りたい、実際その影響を受けてきたから映画を作ろうと思っているわけで、最低限知る必要があります。ただし、当たり前ですが、大切な日常を費やしてまで見るのは、本末転倒だと思います。たくさん作品を見てる人の方がよい作品を生み出す可能性が高ければ納得できたと思いますが、偶然か、私の周りではそうではありませんでした。
「僕は映画を5000本見てきたけど、あなたの脚本はおもしろくない」と20代の時、20代の人に言われた事があります。私が受け取ったのは「あ、この人に私の作品はおもしろくないんだ!」ではなく、この人物の日常の感触だけでした。ざっと計算しても一万時間、休むことなく毎日5時間費やしても5年半かかります。あんたの青春はどこ行っちまったんだい、と真面目に問いたい。
イメージはこうです。作品を見るというのは、音楽であれば、聞く事、料理であれば出来上がった料理を味わう事。勉強しなくても体験できます。三ツ星レストランのフレンチ、B級グルメのカレーや、たこやきを食らったりできます。金を出せば得られる機会で、ラクで、楽しそうです。リスクはまずい作品に金や時間を出す事だけです。でも、これからうまい料理を作りたい人が知識の薄い状態でおいしい料理を食べても得るものは少ないのです。 よい音楽を聴くだけ、うまい料理を食べるだけで、それなりの勉強ができるようになるには、そもそも高い実力が必要です。もちろん、本当においしい料理を知っておく必要があります。それでも、必要最低限でよいと思うのです。料理でいう必要なインプットは、きゅうりやトマトなど、素材の味を知る事、実際、色々な調理をこなすこと。音楽であれば、実際に演奏してみる事。
では役者において、インプットは何か想像できますか。次回、この連載の肝で一番声を大きくして言いたい事で、長くなるので一度ここで切っておきます。是非、見に来てください。ドラマチックなんで。
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