見つけてもらおうなんて思わない事

 自戒込め。
 かれこれ15年くらい前、業界ではそこそこの新人の為の賞を運よくもらった事がある。そこそこの賞だから、いろんなことができるんじゃない、と思っていた。確かに人脈はそこそこ広がって、そこそこ仕事ももらって、そこそこの期間続いたんだけど、とにかく疲れた。疲れた理由は分かっている。やりたい仕事にたどり着けなかったから。
 微塵も感じていなかったけれど、ある席で酔っぱらった先輩の脚本家がそっぽ向きながら「この人を世に出したいねん」と自分の取引先プロデューサーに言ってくれた。驚いた。ありがたかった。でも私が仕事でげっそりしているのを見て「それは君、もう、消耗や。仕事で消耗せんでええねん」と言ってくれて、申しわけなかったけど、それ以上ない人生のアドバイスになってしまった。

 だから、これからの人に伝えておきたいと思う。シナリオだけでなく、若くして(若くなくとも)幸運にもなんかいい役割をもらった! って場合全てに同じ事が言えると思うから。調子に乗っても浮かれてもいい。それはどっちでもいい。大切なのは準備。

 大切な事を知らなかったのは、経験者の声が聞こえてこなかったから。受賞前後の人とのつながりはできても受賞から数年後の人とはなかなかつながらなかった。あるテレビのシナリオ大賞の受賞者のホンが好きで、私の希望で脚本家仲間につなげてもらった。でもそのおじさん、会った時には受賞したテレビ局の看板連ドラを何話かやった後、すでに全てを諦めてるいるような状態だった。そして私もすぐにおじさんと同じ穴に落ちた。

 まずそういったそこそこの賞について、つい、営業のゴールと思ってしまうかもしれない。なんか周りもそういう扱いをしてくる。ごく一部、実際そういう成功者もいるだろうし。でもそれは珍しい例。ゴールでなく「営業がしやすくなる」地点でしかない事を忘れない。そして、その賞の賞味期限は1年くらいと思って、その間に自分からたくさん営業できるのが大事。ダメだったらすぐ次にいくつもりの。だからそのために企画をたくさん練っておく事。そして運よく受賞したら、そのやりたい企画の塊のくすだまをパーンと割って、皆に配れる(営業する)備えが大事。「最近こういう賞をもらったから」って言えるから、相手にしてもらえる確率が上がる。賞のアドバンテージはここだけ、と心得る。自分の企画を受け止めて欲しい素敵な相手を探すのも時間がかかる。さぼらずにやっておく事。

 当時、私の割れたくす玉は空っぽだったし、入っていたとして誰にくばるべきかも皆目調べていなかった。もったいない事をした。見つけてもらいやすくなるんだ! って勘違いしてた。でも今ならわかる、そんなわきゃない。ただの運だったんだから。一部大好きになってくれた人以外は皆興味はない。一部、大好きになってくれた人でさえ、自分が好きになれるジャンル、両想いである確率はほとんどない。名前がある賞だと「その賞の入選者だから」と依頼者の興味も薄いのに仕事をよこす人がいる。こっちも新人でそんなもんか、とやってしまう。私にとってはマイナスでしかなかった。当時は気が付かなかったけど。
 
 受賞の喜び所は「自分の発信を受け止めてもらえるかもしれない可能性がわずかに増えたんだ!」が正解。自分発信が基本。決して見つけてもらおうなんて思わない事。






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