文徒ジャーナル Vol.38

Index------------------------------------------------------
1)令和の「ノストラダムスの大予言」か!?「私が見た未来 完全版」が爆売れ!
2)版元販売担当は迷わず「本屋の堀ちゃん」を買うべきだ
3)「歴史戦」が遂に産経ジャーナリズムの枠を突破した!
4)字幕「捏造」問題で説明責任を放棄したNHKに新聞社説がNO!
5)風間賢二「怪異猟奇ミステリー全史」が刺激的だ!
6)仏マルクス主義政治学者に学んだ萱野稔人がテレビでトンデモ発言!
7)読売文学賞は川本直「ジュリアン・バトラーの真実の生涯」!
8)テレビで会えない松元、村本、百田もか!
9)性と暴力の作家・石原慎太郎が亡くなった
10)町山智浩VS萱野稔人!菅元総理のヒトラー発言をめぐって
11)著作権法侵害ビジネスを摘発!リーチサイト「漫画天国」とネタバレサイト「漫画ル」
12)新聞社説が無視した石原慎太郎について
----------------------------------------2022.1.31-2.04 Shuppanjin


1)令和の「ノストラダムスの大予言」か!?「私が見た未来 完全版」が爆売れ!

1月17日~1月23日の週間アマゾン「コミック」ランキングで、たつき諒の「私が見た未来 完全版」(飛鳥新社)が第1位となっている。
https://animeanime.jp/article/2022/01/27/67139.html
「私が見た未来」は、もともと1999年に朝日ソノラマから刊行されている。この刊行をもって、たつき諒は漫画家を引退していた。ところが朝日ソノラマ版「私が見た未来」の表紙には、「大災害は2011年3月」と書かれていたことから、東日本大震災を予言し、的中したと話題になり、古書店で10万円以上の値段がつくということもあったらしい。
かくして飛鳥新社から「私が見た未来 完全版」として刊行されることになったのだが、たつきの「夢告」を踏まえて2025年の災害を予言していることがSNSで話題となり、テレビなどでも取り上げられるようになり、売行に火がついたものと思われる。そう、令和版「ノストラダムスの大予言」なのかもしれない。こんな投稿をツイッターで発見した。
《こないだのトンガの噴火もだし、「私が見た未来」って本に書かれていることが現実になりそうな予感がする。怖いな…。いまから備えておかなきゃ。1人だけ助かっても意味ないし、みんながどうか無事でありますように!》
https://twitter.com/buttiandi/status/1484565134479880196
《たつき諒先生の「私が見た未来完全版」に掲載されている「ボコンと(海が)盛り上がって」というコメントと絵が、今回の津波の原因となったトンガの噴火の写真とそっくりで驚いています。
本に掲載されている2025年7月の大津波がとても気になる…。》
https://twitter.com/BTTP1605/status/1482511067888508929
こういう投稿を目にすれば、怖いもの見たさで買いたくなるのが読者心理である。「私が見た未来完全版」は現在、40万部だがもしかするとミリオンを記録するかもしれない。
「@DIME」が1月23日付で「SNSで話題の予言漫画『私が見た未来 完全版』、ヒットの裏にあった摩訶不思議な復刻の経緯」を発表している。
《このマンガは、漫画家のたつき諒さんが自身の夢を書き溜めた「夢日記」が掲載され、そこに記された幾つかのストーリーが数年後に現実として起こった話しがまとめられている。
出版元である飛鳥新社によると、発売から2ヵ月で発行部数40万部になっているという。発売後からオリコンの「週間 BOOKランキング」で1位(2021年10月18日付)になるなど大きな売上となっている。ヒットの背景には、ネットから始まり、大手出版社も巻き込んだ騒動があった。》
作者・たつき諒の「なりすまし」が出現したのだ。最初に騙されたのは、講談社であったようだ。昨年、3月26日発売の「フライデー」4月9日号は「東日本大震災を的確に当てた『予言漫画』次のxデー」を掲載し、たつき諒をインタビューしているのだが、ここに登場したのは「なりすまし」であったことが判明する。「なりすまし」が好んで吹聴していたのは富士山大噴火であった。
驚くべきは最初に飛鳥新社に接触したのは、たつき諒本人ではなく「なりすまし」であったことだ。
「@DIME」の記事は書いている。
《その「なりすまし」は、出版元である飛鳥新社に接触して、本書の出版にも関わっていた。しかし、たつき諒さん本人が、家族から本書の出版が進行していると聞かされ、出版社に問い合わせたことで、全てが明るみとなる。
当初、2021年7月17日に「完全版」は出版される予定であった。しかし著者本人が名乗り出てきたことで、事態は急変した。当然のごとく出版は延期に。飛鳥新社は「内容を大幅に見直す」と発表した。》
https://dime.jp/genre/1305535/
飛鳥新社は2021年6月25日付で「発売延期のお詫びとお知らせ」を発表している。
《2021年7月17日に発売を予定しておりました、『私が見た未来 完全版』につきまして、諸事情により、発売を延期させていただくこととなりました。
発売予定日直前のご案内となってしまい、楽しみにお待ち下さっているお客様始め、関係者の皆様には多大なご迷惑をおかけいたしますこと、心よりお詫び申し上げます。
発売時期につきましては、10月を予定しておりますが、内容含め決定次第小社ホームページにてご案内をさせていただきます。何卒ご理解頂きますよう、お願い申し上げます。》
http://www.asukashinsha.co.jp/info/archive/post-34.php
飛鳥新社が交渉していたのは、「なりすまし」であったことに気がついたのだ。同日付で「重要なお知らせ」を発表している。
《『私が見た未来 完全版』につきまして、「たつき諒」を名乗るTwitterの偽アカウントの存在が確認されました。以下の偽アカウントは、たつき諒先生及び当社とは一切関係がございません。
@tatsukiryofusi1
@TedpfLT38ptTtGO
なお、当社よりTwitter社側へスパム報告及びなりすましアカウントであることの報告をしております。》
http://www.asukashinsha.co.jp/info/archive/post-33.php
更に飛鳥新社は6月26日付で「商品内容の一部変更のお知らせ」を発表している。「なりすまし」を排除し、たつき諒本人との間で「私が見た未来 完全版」は単なる旧作の復刻ではなく、未発表の原稿や新たな予知夢を踏まえて構成されることになる。
《10月2日に発売予定の『私が見た未来 完全版』につきまして、
制作の過程で新たな事実が判明し、内容の一部を変更させていただくことになりました。
本書は1999年に発表された作品の改訂で、読み解きや解釈を加える構成を予定していましたが、
未発表の原稿や新たな予知夢が出てきたため、内容を大幅に見直すことにいたしました。
当初、予定していた構成と異なる部分がございますのでご注意ください。
小社ホームページ及びネット書店様の当該書籍の紹介ページにて、
改めて内容紹介のご案内をさせていただきます。
また、取材を通じて、8月の富士山の噴火をはじめとする様々な予言の中に、
著者の意図と異なる不確かな情報が確認されましたので併せてご報告させていただきます。
すでにご予約いただいたお客様にはご迷惑をおかけいたしますが、
ご購入前に今一度内容のご確認をお願い申し上げます。》
http://www.asukashinsha.co.jp/info/archive/post-35.php
「このような前代未聞の事態を経て、2021年10月2日に本書は出版された」(「@DIME」)が話題に火をつけたとも言えるだろう。
茨城県鉾田市の「ブックスましこ」がツイートしている。
《#私が見た未来完全版
東日本大震災を予言して当てた話題のマンガです!
22年前に当てるってすごいです
本当の大災難2025年7月にやってくると書いてあると読みたくなります!
在庫有りです!興味のある方はお問合せお待ちしています!》
https://twitter.com/BooksMasiko/status/1486896347709988868
毎日新聞が1月10日付で掲載した「風知草『たつき諒』現象」で山田孝男は次のように書いている。
《たつき諒に会ってみた。首都近郊に住む67歳。霊能や透視力があるという自覚はない。予言的中という評判も、新刊の出版も自ら言い出したことではない。老母と障害をもつ姉の世話で忙しく、世間に出るつもりなどない。だが――。
「何百年、何千年、何万年かに1度の大災害なんて自分の生きている間は来ないと誰でも思うけど、(自分の見た夢は)それがまもなく来るという意味かなと解釈しています」
元漫画家は、自宅周辺のハザードマップが小さくて読みづらい上、江戸中期の大津波を軽視しており、想定が甘過ぎると嘆いた。そうでなくとも、マップは災害の種類、水系ごとに複雑で頭に入りにくい。
「自分の住んでいる土地の地形の特徴、過去の災害事例を知っておくことが大事だと思いますよ」
生身の、たつき諒の防災意識は現実的だった。忍び寄る巨大災害への不安は広く共有されているが、具体的な対策、行動変容はなかなか進まない。「たつき諒現象」は、大震災11年目の油断、慢心への皮肉な警告になっている。》
https://mainichi.jp/articles/20220110/ddm/002/070/093000c

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