文徒インフォメーション Vol.44

Index------------------------------------------------------
1)【Book】推理作家の大谷羊太郎が亡くなっていた
2)【Publisher】文藝春秋がデジタル開発・ビジネスのための新会社
3)【Advertising】電通、ロシア国内事業を合弁相手先に譲渡へ
4)【Digital】小学館「週刊コロコロコミック」は完全無料のWEBコミックサイト
5)【Magazine】ウクライナ戦争では「ニューズウィーク日本版」が独走
6)【Marketing】主婦の友社、書店で来年の新入学に向けたランドセルの展示予約販売
7)【Comic】講談社「コミックDAYS」での本誌的イチオシは細野不二彦「恋とゲバルト」
8)【TV, Radio, Movie, Music & More】森美術館「Chim↑Pom展」は見応えあり!
9)【War】ペンクラブ、文藝家協会、推協、書協が声明を発表
10)【Journalism】旭川医大侵入容疑の記者2人書類送検、道新は見解なし
11)【Bookstore】持続可能な書店を目指した那須ブックセンターの遺訓
---------------------------------------2022.3.14-3.18 Shuppanjin

1)【Book】推理作家の大谷羊太郎が亡くなっていた

◎忘れないと決めたのは乃南アサだけではなかろう。
《この先プーチンがどう生き延びて、どんな華やかな場所に姿を見せることになろうとも、その手と顔は、真っ赤な血糊で染まりきっていることを、私は生涯、忘れないし、その手と平気で握手しようとする人がいたら、その人のことも忘れないと思う。》
https://twitter.com/asanonami/status/1502553535954976769
イラストレーターの三好愛がツイートしている。「ペンギンの憂鬱」の版元は新潮社。
《ニュースだけだとしんどいのでウクライナの小説の『ペンギンの憂鬱』を読んでる。ペンギンがだるそうすぎてかわいい。作者のアンドレイ・クルコフさんはキエフからちょっと離れたところに避難してエッセーなどを書きつづけてるみたい。》
https://twitter.com/344ai/status/1502307666668158982
仲俣暁生はマイダン革命を記録したアンドレイ・クルコフの「ウクライナ日記 国民的作家が綴った祖国激動の155日」(ホーム社)を読んでいる。
《出先で読み始めてしまった。》
《クルコフの日記読了。以前に『ペンギンの憂鬱』を読んでいたので作者に親近感もあり、マイダン革命前後のキエフの雰囲気がよくわかった。村上春樹風に思えた記憶を確認するため、ペンギンは古書で買い直し。もう一つのは訳書の価格が高騰しておりやむなく英語版を。》
https://twitter.com/solar1964/status/1501836469832675328
https://twitter.com/solar1964/status/1502100368033206272
「ペンギンの憂鬱」を翻訳した沼野恭子は、ウクライナ生まれのスベトラーナ・アレクシエービッチの「戦争は女の顔をしていない」(岩波現代文庫)も翻訳している。毎日新聞は3月11日付で「なぜ志願兵に?『戦争は女の顔をしていない』が今問いかけるもの」を掲載している。毎日新聞の牧野宏美が沼野恭子とともにこの作品が今、問いかけるものとは何かを読み解く記事だ。
《ベラルーシ人の父とウクライナ人の母を持ち、ロシア語で作品を書くアレクシエービッチ氏は、自らを「三つの家に住んでいる」と表現する。現在ベラルーシから亡命中だが、ロシアのウクライナ侵攻についてドイツメディアのネットニュース(2月24日)で「30年代と似ている」と話し、名指しは避けたものの、38年にチェコスロバキアに侵攻したナチス・ドイツのヒトラーとプーチン氏を重ね合わせて非難した。さらに7日までに、ロシアの作家たちと連名でウクライナ侵攻を批判する声明を出した。》
《沼野さんは少し考え、かみしめるように言った。「アレクシエービッチ氏は他の作品も含め、権力者ではなく、一貫して市井の人たちの声を集め続けてきました。彼女は彼らを恵まれない境遇に置かれ、虐げられてきたという意味で『小さな人間』と表現します。『小さな人間』が戦争に巻き込まれ、どんな経験をし、何を感じたか。アレクシエービッチ氏が引き出した重い声に、耳を傾けることが大切なのではないでしょうか」》
https://mainichi.jp/articles/20220310/k00/00m/040/125000c
島田雅彦のツイート。
《このがんじがらめの状況でも反戦を唱えることには意味がある。武器を供与せず、食料や医薬品を届け、ウクライナ難民のみならず、全ての難民に平等に支援の手を伸ばし、反差別の輪を広げる以外に泥沼を抜け出す方法はない。闇の帝国を戦争で儲けられない状態に追いやる。それならば私たちにもできる。》
https://twitter.com/SdaMhiko/status/1502859546598932480

◎毎日新聞は3月12日付で「ロシア文学者を『絶望』させたプーチン氏の『最後の夢』」(大野友嘉子)を掲載している。「カラマーゾフの兄弟」の翻訳で知られるロシア文学者にして、名古屋外国語大学の学長をつとめる亀山郁夫に大野がインタビューしている。
《しかし何よりも問題なのは、プーチン大統領が、一種の観念的な美学に酔っていることです。彼は、昨年、ドストエフスキー生誕200年の祝典に出席し、「天才的な思想家」というメッセージを残しました。保守派のイデオローグだったドストエフスキーまでも利用して自分の美学を追求しようとしたのです。
私は文学者ですから、あくまでも内在的にしか考えられないのですが、ウクライナ侵攻も、その根底には、そうした彼の美学が影を落としています。世界が、一人の人間の美学の犠牲になろうとしている。恐ろしいことです。》
大野は亀山に「観念的な美学」とは何かと問う。亀山は答える。
《「新ユーラシア主義」です。プーチン大統領は、猛烈なロマンチストです。緻密な頭脳をもち、機銃掃射のように言葉を発するドライな知性の持ち主である半面、おそらくはソ連崩壊時に経験した強烈なトラウマから抜け出すことができなかった。
ちなみに、新ユーラシア主義とは、社会主義の理念に結ばれた旧ソ連の版図を、ロシア正教の原理で一元化し、西欧でもアジアでもない、独自の精神共同体とみなす考えです。彼のロマンチストとしての願望にぴったり一致しています。》
https://mainichi.jp/articles/20220311/k00/00m/030/358000c
プーチンの「観念的な美学」にはドストエフスキーが貼り付いているのではないか。
究極的な政治の美学化が追求されたのは、20世紀においてはヒトラーの第三帝国であったが21世紀においてはプーチンのロシアということになるのだろうか。「政治の美学 権力と表象」(東京大学出版会)の田中純が次のようにツイートしている。
《プーチンやその権力・軍事機構とロシア市民やその文化はまったく別だし、ロシアの文学・芸術に対する敬意は何ら変わらない。それはナチを生んだからといってドイツの文学や芸術を否定するのでないのと同じこと(両者が無関係とは言わない)。その点の覚悟は文化の研究者であれば持っている筈のこと。》
https://twitter.com/tanajun009/status/1501871872258240514
「政治の美学」のエピローグは周知のようにすぐれた「頭脳警察論」であったことを忘れてはなるまい。
http://www.utp.or.jp/book/b305864.html
2016年6月に刊行された亀山郁夫の「ゴルバチョフに会いに行く」(集英社)で、ゴルバチョフがウクライナ問題で「もし戦争になれば核兵器の使用は避けられなくなる」と語っていることを安富歩のツイートで知る。
https://twitter.com/anmintei/status/1501949982256996353
毎日新聞のインタビューで亀山が生気のない声で「絶望」という言葉を口にしたのも、これで理解できよう。。

◎宮崎本大賞は小野寺史宜「ひと」(祥伝社文庫)に決まった。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000001.000051460.html

◎プチ鹿島の「お笑い公文書2022 こんな日本に誰がした! プチ鹿島政治コラム集」が文藝春秋から刊行された。「文春オンライン」に掲載したコラムを中心にまとめられている。読めば抱腹絶倒間違いなし。それでいて高度なメディアリテラシーの実践録でもある。
https://books.bunshun.jp/articles/-/6981?utm_source=twitter.com&utm_medium=social&utm_campaign=socialLink
漫画家の上野顕太郎がツイートしている。
《私がカバーを描かせて頂いた、プチ鹿島さんの新刊「お笑い公文書2022こんな日本に誰がした!プチ鹿島政治コラム集」が発売されましたよ!ネットで買うのも良いけれど、地元の本屋さんで買ったり注文したりも良いですよ!》
https://twitter.com/ueken18/status/1502163487732416516
ブックファースト新宿店がツイートしている。
《『お笑い公文書2022 こんな日本に誰がした! プチ鹿島政治コラム集』(文藝春秋)が入荷。新聞の読み比べで、小難しい政治の話題を呆れつつもわかり易くしてくれる「週刊文春」連載を書籍化。
公文書の記録が怪しい昨今、この本を記録としてお手元に残してみませんか。》
https://twitter.com/book1stshinjuku/status/1502098706367062018
「選挙活動、ビラ配りからやってみた。『香川1区』密着日記」の隣に並べられている。ブチ鹿島がブックファースト新宿店を引用ツイート。
《和田靜香さんの隣りだ》
https://twitter.com/pkashima/status/1502105181151891460
和田靜香がリプライしている。
《2冊まとめてレジに持って行ってくださる素晴らしき方を期待して。。。プチ鹿島さんのご著書と隣だなんて、光栄です。私も読まねば。ねばねばねば~♪》
https://twitter.com/wadashizuka/status/1502111112900202501
この二人のトークショーなんてどうよ。

◎日本推理作家協会賞の候補作が発表された。長編および連作短編集部門の候補作は次の通り。
「大鞠家殺人事件」 芦辺拓(東京創元社)
「ヴィンテージガール 仕立屋探偵 桐ヶ谷京介」 川瀬七緒(講談社)
「ブックキーパー 脳男」 首藤瓜於(講談社)
「トリカゴ」 辻堂ゆめ(東京創元社)
「忌名の如き贄るもの」 三津田信三(講談社)
https://twitter.com/mwjsince1947/status/1502261315586641921
候補にあげられた辻堂ゆめがツイートしている。
《今回の推理作家協会賞長篇部門の候補、講談社3作と東京創元社2作なんですよね。ものすごい一騎討ち感。紅白の鉢巻締めて運動会でもしたくなってきました。》
https://twitter.com/YumeTsujido/status/1502432292236849153
私は「トリカゴ」と「忌名の如き贄るもの」を推す。
評論・研究部門の候補作は次の通り。これは充実している!
「星新一の思想 予見・冷笑・賢慮のひと」 浅羽通明(筑摩書房)
「犬神家の戸籍 『血』と『家』の近代日本」 遠藤正敬(青土社)
「短編ミステリの二百年1~6」 小森収(東京創元社)
「探偵小説と〈狂気〉」 鈴木優作(国書刊行会)
https://twitter.com/mwjsince1947/status/1502262597969920001
私の趣味からすれば「犬神家の戸籍 『血』と『家』の近代日本」か「探偵小説と〈狂気〉」なんだけれど、労作という意味からすれば「短編ミステリの二百年1~6」だろう。
朝日新聞デジタルは3月12日付で「(著者に会いたい)『短編ミステリの二百年』(全6巻)小森収さん」を掲載している。
《ウェブ連載から13年、1巻刊行から丸2年。「翻訳ものを扱ったことのない編集者がやる仕事ではないのですが、乱歩の傑作集から50年、誰もやらないからやった。ないよりはましなものはできたかな」
かつて乱歩は、謎解きが主でないのにミステリー好きの心をわしづかみにする作品群を「奇妙な味」と腑分けしてみせた。このアンソロジーもまた、ミステリーのみならず短編好きのひざを打たせるに違いない。》
https://digital.asahi.com/articles/DA3S15231281.html
短編部門の候補作は次の通り。
「スケーターズ・ワルツ」逸木裕 (KADOKAWA「小説 野性時代」2月号)
「時計屋探偵と二律背反のアリバイ」大山誠一郎(実業之日本社Webジェイノベル 2021/10/12配信)
「光を描く」杉山幌(東京創元社「ミステリーズ!」vol.105)
「手綱を引く」大門 剛明(文藝春秋「オール讀物」12月号)
「コージーボーイズ、あるいは謎の喪中はがき」笛吹太郎(東京創元社「コージーボーイズ、あるいは消えた居酒屋の謎」収録)
https://twitter.com/mwjsince1947/status/1502262185950851077
https://twitter.com/mwjsince1947/status/1502262187276267523
これを予想できる力量は私にはない。

◎毎日新聞は3月11日付で「コロナ時代の幸福論 小さな胸キュン味わい直す 歌人・俵万智さん」(金志尚)を掲載している。
《あまたの歌を詠んできた俵さん、最近では短歌の裾野を広げるための活動にも注力している。中でも4年前から選者を務める「ホスト歌会」はコロナ下にあって一段と熱がこもっているのだという。歌会に参加するのは東京・歌舞伎町で働く現役のホストたちである。
ホストと短歌とはまた意外な組み合わせに思えるが、なかなかどうして親和性が高いのだそうだ。古くから愛の歌が詠まれてきたように、短歌と恋愛は相性がいい。そして女性客たちとの「恋愛ごっこ」はホストの仕事のうち、いわば恋愛のプロというわけである。》
https://mainichi.jp/articles/20220311/dde/012/040/007000c
「ホスト歌会」とは、まさに王道の試みである。

◎世界文化社は、徳島県阿南市の「鯉の川わたし」をテーマにした羽尻利門の絵本「そらいっぱいの こいのぼり」を3月11日(金)に発売した。羽尻は京極夏彦と組んで「えほん遠野物語おまく」(汐文社)を刊行している。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001268.000009728.html

◎推理作家の大谷羊太郎が亡くなっていた。
《【#訃報】突然で恐縮ですが 大谷羊太郎(本名:一夫)儀 病気療養中のところ2月28日早朝 肺炎にて91年の生涯を静かに閉じました
ここに生前のご厚誼に衷心より感謝し 謹んでお知らせ申し上げます
なお勝手乍ら葬儀は近親者のみにて執り行う予定でございます
何卒ご了承くださいませ》
https://twitter.com/otaniyotaro/status/1498601658267291649
大谷は克美しげるのマネージャーだったことで知られている。

◎3月12日付毎日新聞「今週の本棚」で中島京子は、角田光代の「タラント」を《大陸で戦争が始まり胸ふさがれる日々だが、今、読むべき小説に出会えた思いでいる。》と評価している。
https://mainichi.jp/articles/20220312/ddm/015/070/013000c

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デイリー・メールマガジン「文徒」はマスコミ・広告業界の契約法人にクローズドで配信されている。2013年より月〜金のデイリーで発行し続けており、2021年6月で通巻2000号を数えた。出版業界人の間ではスピーチのネタとして用いられることが多く、あまりにも多くの出版人が本誌を引用するせいで「業界全体が〝イマイ社長〟になっちゃったね」などと噂されることも。

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