文徒インフォメーション Vol.46

Index------------------------------------------------------
1)【Book】「同志少女よ、敵を撃て」も「物語ウクライナの歴史」も売れている
2)【Publisher】集英社ゲームズがスタートした
3)【Advertising】広告タレントからサッカー選手が消える?
4)【Digital】双葉社はまんが投稿ポータルサイト「アクションPOST!」をオープンした
5)【Magazine】週刊文春・加藤晃彦「(新聞は)批判を恐れて、自縄自縛になっている」
6)【Marketing】図書館をマーケティング発想で作るのは正しいのか
7)【Comic】「ビッグコミック」連載「正直不動産」がNHK総合でテレビドラマ化
8)【TV, Radio, Movie, Music & More】「アカデミー賞は日本映画の勝利ではない」ツイートが話題
9)【Journalism】「ネオナチ」「プロパガンダ」「アゾフ」「虐殺」の飛び交う戦争報道
10)【Bookstore】日比谷コテージ、古本アクス、中長書店の閉店記事
---------------------------------------2022.3.28-4.1 Shuppanjin

1)【Book】「同志少女よ、敵を撃て」も「物語ウクライナの歴史」も売れている

◎「新潮クレスト・ブックス」編集部が報告している。
《2004年に刊行された、キエフ(キーウ)を舞台にしたアンドレイ・クルコフの『ペンギンの憂鬱』が16刷となりました。もともとロングセラーの人気作品ですが、約4年半ぶりの大増刷。皆さんの関心の高さを感じます。》
《ちなみにクルコフさんはウクライナPEN会長であり、いまだ国内に留まって、この戦争で犠牲になった人々や、ウクライナの作家としての情報発信を日々続けています。》
https://twitter.com/crestbooks/status/1507241340098138114
https://twitter.com/crestbooks/status/1507241342337892355
アンドレイ・クルコフは猫を飼っている。その名はペピン。
https://twitter.com/AKurkov/status/1507319243842502662

◎労働新聞社は3月24日付で逢坂冬馬「同志少女よ、敵を撃て」の大矢博子による書評を掲載している。
《そして今、私が本書を紹介するのは、この物語にウクライナの少女が登場するからである。
その少女――オリガは、セラフィマと同じ狙撃兵訓練学校に入り、同じように前線へと送られる。故郷ウクライナとソ連の間で引き裂かれるオリガ。ロシアによるウクライナ侵攻のニュースに触れたとき、私は真っ先にオリガのことを思い出した。
オリガは言う。「ウクライナがソビエト・ロシアにどんな扱いをされてきたか、知ってる?」「ソ連にとってのウクライナってなに? 略奪すべき農地よ」「ウクライナでは、みんな最初はドイツ人を歓迎していた。これで、ソ連からウクライナは解放されるんだって」。
しかしオリガはソ連兵のひとりとして戦うのだ。それはなぜか。彼女に何があり、彼女が何を選択し、そしてどうなったか。どうか本編で確かめてほしい。》
https://www.rodo.co.jp/column/123742/

◎文藝春秋は、上橋菜穂子の新たな物語としては7年ぶりとなる新作長編「香君」(こうくん)の 上下巻を3月24日に同時発売した。この発売を記念して抽選で100名に「香君」オリジナル一筆箋をプレゼントするTwitterのフォロー&リツイートキャンペーンを実施している。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000165.000043732.html

◎「TikTok」でススメた作品が続々重版となり一躍時の人として注目された小説紹介クリエイター・けんごが「ワカレ花」をもって双葉社から4月28日に小説家としてデビューする。
https://www.futabasha.co.jp/introduction/2022/kengo/index.html
けんごが初めて読んだ小説は東野圭吾「白夜行」だった。「中央公論.jp」は3月24日
付で「けんご 娘・息子が突然小説を読み始める。きっかけはTikTokクリエイター」を発表している。
《僕は、コスパ良く長い時間をつぶしたいと思っていたんです。なので、小説は、文章だけであんなに分厚くて、かつ、文庫本だったら1000円を切るものがほとんどで、かなり費用対効果がいいんじゃないかと。書店で買って、初めて読んだ小説が東野圭吾さんの『白夜行』という作品なんですよ。
かなりページ数が多い作品なので、2、3週間ぐらいかかったんですけど、読み切ることができて、かつ、本当に面白くて。1000円強で長時間楽しむことができた。僕が思い描いていた、効率良く最高の時間を過ごす、そういうことができたと思って、一気に小説の魅力にはまっていった感じです。》
https://chuokoron.jp/culture/119507.html
双葉社は運動神経が相変わらず良い。

◎讀賣新聞オンラインは3月25日付で角田光代「タラント」(中央公論新社)の小川哲による書評を掲載している。「タラント」は讀賣新聞の連載小説であった。
《『タラント』は愛の小説である。「恋愛小説」という意味ではない。世界を変えるために頑張っている人への愛であり、頑張っている人を羨みながら、自分には何もできないと負い目を感じている人への愛であり、自分の人生だけで精一杯で、他人に目を向ける余裕のない人への愛であり、つまりはすべての人への愛の小説である。》
https://www.yomiuri.co.jp/culture/book/review/20220322-OYT8T50109/
「リアルサウンド」は3月20 日付で「角田光代×Aマッソ加納が語り合う、使命と才能『一つのものを信じ続けられるということは強い』」を公開している。角田は次のように語っている。
《角田:『タラント』でいうと“命を使って生きる”とはどういうことか、ということ。たとえば太平洋戦争では、お国のために、天皇のために、命を捧げることが第一と言われて、みんなそれに倣ったわけですよね。でも戦争が終わったらその価値観がまるきりひっくり返って、今は、自分のために生きなさいと声高に叫ばれるようになった。個性を伸ばせ、やりがいを見つけろ、みたいなことを大人たちがもろ手をあげて言い始めているけど、やりたいことに打ち込むということが本当に自分の命を生かすということなんだろうか、実際はみんながみんなやりたいことをやれる社会ではないのに……というのを、考えたかったんだと思います。》
https://realsound.jp/book/2022/03/post-990542.html
「タラント」は東京オリパラの「高揚」が生んだ唯一の成果だったりして。

◎讀賣新聞オンラインは4月25日付で四方田犬彦「戒厳」の苅部直による書評を掲載している。
《語り手の「わたし」は当時の作者より少し若く、韓国についても政治問題についても、それまで知らなかった若者として設定される。その仕掛けを通じて、「韓国という頑強な他者」に直面し、驚きながら強く 惹かれてゆく心の動きについて、躍動感をもって描くことに成功した。国家、軍隊、民族、歴史。若者はそうした問題を 否応 なく考えさせられることになり、自分の育った日本はむしろ「ごちゃごちゃとクリームを塗りたくった砂糖菓子」のようなものだと感じるに至る。》
https://www.yomiuri.co.jp/culture/book/review/20220322-OYT8T50067/
私は木村幹の中公新書「韓国愛憎 激変する隣国と私の30年」も併せて読んだ。
https://www.chuko.co.jp/shinsho/2022/01/102682.html
同時期に伊東順子の集英社新書「韓国カルチャー」も刊行されているが、伊東には、ちくま新書「韓国 現地からの報告 ─セウォル号事件から文在寅政権まで」もある。
https://shinsho.shueisha.co.jp/kikan/1099-b/
https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480073020/
四方田、木村、伊東が韓国論をめぐって激突する、そんな鼎談が読みたいと私は思ったが、今やそういう企画を実現しようという雑誌はないようだ。

◎毎日新聞は3月26日付で「今週の本棚・著者に聞く 風間賢二さん 『怪異猟奇ミステリー全史』」を掲載している。
《大学でフランス文学を専攻したが、入学前まで小説を多くは読んでいなかった。「周囲が文学少年、少女ばかりで、話についていけなくて」。一念発起して『赤と黒』『老人と海』などの作品を読むうち、巡り合ったのが「サディズム」の語源となった作家、マルキ・ド・サドの作品だった。「ああ、自分の道はこれだ」と感じた。早川書房の勤務を経て幻想文学の研究を続け、今に至る。》
https://mainichi.jp/articles/20220326/ddm/015/070/017000c
風間史観の根っこにはサドが横たわっているということか。

◎3月26日付毎日新聞の「今週の本棚 話題の本」では松田青子の「自分で名付ける」(集英社)が取り上げられている。評者は歌舞伎町商店街振興組合常任理事の手塚マキである。
《「男よ、読め。これが現代日本の『アンクル・トムの小屋』だ」。私がこう言っても、既得権益にあぐらをかく男たちは決して読まないだろう。それでも、いやだからこそ、私はおこがましくもリンカーンのようにそうした男たちに宣戦布告する気持ちで「読め」と言いたい。性別によって不利益を強いられるアンフェアな社会とは決別しよう。本書はそのための『アンクル・トムの小屋』になり得る。》
https://mainichi.jp/articles/20220326/ddm/015/070/009000c
家父長制イデオロギーをものの見事に粉砕している。しかも面白おかしく、だ。「自分で名付ける」は昨年、夏に刊行されている。

◎小説家の真下みことが早稲田大学を卒業した。所属は創造理工学部・研究科だったそうだ。
《6年間通った早稲田大学を卒業しました。
所属していた研究室の先生は毎年オリジナルの学位記を作ってくださる方で、今年は「SNS用に」とこんな認定証も作ってくださりました。
いつも優しく小説のことも応援してくださる先生のおかげで卒論も修論も小説も書くことができ、本当に感謝するばかりです。》
《無事卒業できたので公表しますが、所属は創造理工学部・研究科でした。》
https://twitter.com/mikoto_mashita/status/1507721838826508290
https://twitter.com/mikoto_mashita/status/1507722393787453451

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