「プロでしょう?」
これは、ライターにとって“アキレス腱”的存在とも言える、締め切りにまつわる話。
以前勤めていた編プロでは、年に1回全員で会議がありました。
毎年議題は違うのですが、ある年議題になったのが、締め切り問題。
1.締め切りを過ぎても質のいい原稿を上げる
2.質はほどほどでも、締め切りは必ず守る
1と2、どちらが正しい姿勢なのかを考えると言うのがお題でした。
そこで全社員で意見交換し、導きだしたのは「2が正しい」という答え。
なぜなら、ライターが原稿を送った後にも、編集者の原稿チェック、デザイナーによるレイアウト、取材相手への校正、校閲、印刷…などなどスケジュールが詰まっているから。
ライターが締め切りを守らないと、それらに携わる全員に迷惑をかけてしまいます。だから、「締め切りを守らないで送った原稿は、どんなにいいものだろうとゴミだ」という結論となったのです。
ですが、それを聞いた当時の社長は、
「私は1が正しいと考えている」と話されました。
質のいい原稿を送らなければ、次の仕事はもう来ない。
だから長い目で見れば、1が正しいこともある…と。
きっと社長の言われたように、いつもどちらかが正しい…ということではなく、ケースバイケースだと思います。
でも、私はもう長い間1の姿勢を続けています。
(あ、いつも品質はほどほどの原稿…ということではなく、可能な限り良い品質の原稿を目指しています汗)
そしてそれには、とあるきっかけがあるのです。
それは、この会議が行われるよりもっと前。
確か私がライターになって3年目くらいのことでした。
あるビジネス誌からの依頼で、Aという企業へ取材にいった時のことです。
内容は、「Aにあるメーカーの製品を導入したことで、大幅に経費節減に成功した」というもの。
取材相手は、その製品の導入を決めた担当者Bさん。
いわばAの社内では、「経費節減の立役者」とでもいうべき立場の人でした。
この取材の途中にふと、確か移動中か何かのタイミングでBさんに、
「この記事、3日くらいで書けますよね?」と言われたのです。
世間話のような軽い口調で、取材と撮影ディレクションに気を取られていた私は「そうですね。それぐらいですねー」程度の生返事をしたと記憶しています。
その時は、「原稿納品日は後日また相談すればいいや」と軽く考えていたのです。
さて取材が終わり、会社に戻ってスケジュールを確認してみると、他の原稿執筆でスケジュールがうまっており、いくら急いでも完成まで5日はかかりそうです。
そこで、慌ててBさんにメールして、「原稿は5日後に送付とさせてください」とお願いしました。
そのメールの返事で帰ってきたのは、
「プロでしょう?」
という言葉でした。
本当に、たったひと言だけ。
書かれていた言葉はそれだけですが、そこには間違いなく、
「3日でできると言ったのだから、3日でアップするのがプロとして当然だろう」という意味が含まれていました。
私はこれを読んで、「カーッ」と頭に血が上った気がしました。
取材時に生返事をした自分、そして締め切りへの意識の低い自分が心底情けないと思ったのと、明らかに相手にバカにされている、挑発されていると感じたから。
そして、「カーッ」となったその感情のまま、一気に原稿に向かったのです。
編プロにありがちですが、勤めていた頃は残業が日常だったので、メールを読んだのは確か午後9時頃。
でも、終電ギリギリまでモー然と書き続け、なんとか原稿は完成しました。
そして、「甘えたことを言って申し訳ございませんでした」というお詫びの言葉と共に、かのBさんへ原稿を送りました。
しかしそのメールに、Bさんが何か言ってくることはなく、淡々と校正だけが返ってきて、無事この案件は終了。
その1年後、奇しくも同じ案件でBさんに再び会うことになったのですが、その時も何事もなく。大人と大人として、和やかに取材を終えました。
私はこの時から、一度決めた締め切りは必ず守るようになりました。
口約束で生返事をすることもなくなり、スケジュールを見て確実に上げられる、余裕のある日程でしか、基本仕事は受けません。
どうしてもいろいろ重なってしまった時は、おもに早朝や深夜を活用。
岩にかじりついて!?でも、締め切りは守っています。
「プロでしょう?」
そう言われた時の情けなさと悔しさを、今でもよく覚えているから。
そう考えるとBさんは、「自分を成長させてくれた恩師」といってもいい存在なのかも知れません。
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