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道草(3)自転車旅行の「スゲー」の巻 その1

 中学3年生の終わりの春休みにMちゃんとF雄を誘い、中学卒業記念三浦半島一周自転車旅行を打ち上げた。ユースホステル利用の二泊三日の旅行だ。自転車で三鷹から逗子経由で三浦半島を一周して三鷹に戻る計画は、15歳の少年たちにとっては結構な冒険旅行だった。往きは向かい風に苦しめられ、帰りは国道246号線のアップダウンでへとへとになったけど、城ヶ島から見た天の川に3人とも「スゲー」となった。

 1年後の高校1年生の終わりの春休みは、F雄と富士五湖をめぐる自転車旅行を計画した。いつもの通り三鷹を午前零時に出発して甲州街道に入り小仏峠を越えて大月へ、ここから左折して富士山を正面に観ながら富士吉田へと向かった。ところがすでにここは富士山の裾野なので(と分かったのは、後で等高線の地図を見てからだけど)、緩やかだけど延々とどこまでも登り坂が続いた。なんとか富士吉田に着き、右折して河口湖へ、そして今日の宿泊予定地の西湖に向かう。観光地の河口湖から離れると華やかな風景は一変し緑が多くなり道路も砂利道となった。
 西湖は原生林と溶岩に囲まれたまったく人影がない静かな湖だった。ただ、まだ陽も高いので、そのまま精進湖と本栖湖まで足を延ばした。「あっ富士山の形が変わっている」と声には出さなかったけれど河口湖で観た富士山とは違う形になっている。驚いた。富士山も表裏があるんだなと思いながら西湖に戻った。
 西湖の湖畔は溶岩だらけで、テントを張れる場所がなかなか見つからなかったが、わずかに平らになっている窪地を見つけてエイヤっとテントを張った。実はちゃんとしたテントではない。F雄が古いカーテンを縫って作ったものだ。仕立て職人の息子だけある。「スゲー」と思った。ラーメンを夕飯にして寝袋に潜り込んで無事一日が終わった。ここまでは順調だった。
 明け方近く、何か息苦しい。「どうしたんだ」と、うっすら目を開けるとカーテンのテントが顔にピッタリ付いている。「苦しいわけだ」と手で上に上げようとしたら上がらない。「なんだ!」と二人とも飛び起きたら30cmの雪が積もっていた。2人で「スゲー」と叫んだ。つづく

メールマガジン『ぶんしん出版+ことこと舎便り』Vol.25 2023/08/03

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