小噺「修学旅行」

生徒会副委員長、及川
「ただいまより、緊急生徒会を行います。
3年生各組の学級委員長の他に、体育会系、文化会系の、部長にも声をかけさせてもらいました!
講堂で、出来るだけ、間隔をとって座って
マスクをしてなら、放課後集まって、協議をしても良いと学校側から許可をもらいました。
集まってもらって、ありがとう
時間40分と決められてます。
ドアは全て開けています。
議題は修学旅行についてです。
時間がないので、福田生徒会長に
一言、手短にお願いします。
では福田君どうぞ」

生徒会長、福田
「時間がないのでいきなり本題に入ります。
インターハイがなくなりました。
そして高校野球が中止となりました。戦後初めてのことです。
だから、高校時代の思い出に、せめて修学旅行だけでも行きたいと、みんなで工夫をして、三密を避けることができれば行けないことはないと、それをみんなで考えて、学校側に直訴したいと、思うんです。
先生方はまた来年があっても、われわれ3年生にはもう、ないんです」

野球部キャプテン、梅川
「委員長、その議論に入る前に、一言みんなに礼を言いたいことがあるねんけど、ええかなぁ?」

福田
「じゃあ、梅川君」

梅川
「ありがとう、インターハイがなくなって、高校野球にわれわれは、厳しい練習に耐えてやってきました。
大阪の名門校、強豪ひしめく中で、われわれが、大阪代表になるのは非常に、厳しいのはわかってます。
でもベストを尽くしたい。
せめて準決まではと頑張ってきました。
僕らの 応援のためににわかの応援団をつくって、応援の練習をしてくれた、
ブラスバンドのみんなありがとう。
それがなくなってせめて、修学旅行へ行って、各クラスの野球大会でもやりたい。
硬式じゃなくて、ソフトボールで女子も参加して、修学旅行先のどこか、野球場を借りてそれを僕らの最後の甲子園にしたいんや。
でないと、高校時代に区切りがつかへんし、
こうなったら修学旅行を高校生活の一番の思い出にしたい。よろしくお願いします。
自分も福田君に賛成です。
なんとか修学旅行に行きたいと思います」

福田
「ありがとう、修学旅行先で野球をするのは面白そうや。他にない?なんでも意見を言って」

A組代表、大塚
「はい」

福田
「大塚君」

大塚
「委員長、われわれは3年生です、来年受験です。ただでさえ、授業がなくて、勉強も遅れてる。
そら 学年最後の思い出に旅行は行きたい。
毎年、早い時期に行ってた。
それならええけど、でも、どこに行くにも、みんな離れとかないかんし、そんな修学旅行に、
野球をする余裕はないのと違うかな、A組は、特に国立に進学するのを希望してるのが多いから、修学旅行に4日も5日も6日もとられたら、たまらんわ、それで野球するて」

梅川
「大塚は、頭はええけど、運動神経はさっぱりやからな、お前、野球の時、A組の監督やれ、いろいろ頭使うで」

大塚
「そんなんで、頭使いたないわ」

B組代表、鈴木
「はい」

福田
「鈴木君」

鈴木
「ハイ、別に野球をやりたい奴はやったらええし、観光したいものはしたらええし、結構3年生の中にカップルもいるから
新婚旅行もかねてもええんと違う?」

福田
「あかんあかん。そんな奴はおらんやろけど」

C組代表、安田
「ハイ、委員長、
今年も例年通り、九州へ行くんか?」

福田
「それについては、考えていることがあるねん。学校と交渉して、思い出に残る修学旅行にするから、もちろんみんなに参加してもらう」

大塚
「えー、全員参加、
待ってくれよ、ただでさえ勉強遅れてるのに」

福田
「大塚君、みんなで参加せんと、思い出にならへん、考えてるのは、なにも今までみたいに、
5日も6日も旅行にいかへん。
この時期、たとえ1泊旅行でもええやん。
バスで行って帰ってくる。毎年いってる長崎と違ってもええのと違うか?岡山でもええやん」

大塚
「岡山、えらいまた、近いなぁ」

てな、訳で
なんとか、生徒たちの希望が叶って、
父兄も学校側もせめて
修学旅行だけでも行かしてやろうと、
行ってまいりました。

梅川
「福田、ありがとう、めっちゃ楽しい、思い出に残る修学旅行やった。
宿泊先が湯原温泉で、みんなが分かれて泊まって、密接を避けて、みんなひとり部屋で、俺なんか宴会場で1人やったから淋しかったわ。
けど、まさか、岡山県倉敷スポーツ公園球場で野球ができるやなんて、夢のようやった。
愛称マスカットスタジアムで相手は阪神タイガースの2軍と試合をやらせてもらうやなんて」

福田
「よかったな」

梅川
「うちの高校のOBで、阪神の2軍のコーチやってる先輩と監督が同期で、声かけてくれて実現したんや」

福田
「応援団も張り切ってできたし、バス10台、1台に20人や、充分に間あけて、料理も各旅館、ホテルの大広間で、離れて食べたから、良かったがな、料理は組合が相談して、同じものにしてくれたらしい。
誰1人、体調を崩したものはおらなんだ」

梅川
「それにしても湯原温泉あげて、歓迎してくれて、風呂も5人ずつ別れて、密接にならんように、それにしても、勉強のこと心配してた大塚が17ある湯めぐりを夜通しやって、湯あたりして倒れたんやて?」

福田
「そうやねん。
よほどストレス溜まってたみたいやな。
先生方もこんな楽しい修学旅行は初めてや言うてはった」

梅川
「ええ思い出になった。福田のおかげや。
テレビの取材もいっぱい来たしなぁ
十分にインターハイや高校野球なくなった穴埋めになったがな。
よう、福田、こんな素晴らしい修学旅行というより、おっさんの旅みたいやったけど、女子も喜んでたよ
けど、かなりお金もかかったんと違う?」

福田
「それが、たまたまテレビ見てたら湯原温泉の若手の温泉旅館の組合員が、コロナで客落ち込んで、非常事態宣言解除になったらどない宣伝しよう、言うてるのん、見て、すぐに電話かけて、修学旅行で、近場で思い出作りたい、
われわれを宣伝に使ってくれ、言うたら、タダになったんや」

おわり


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