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DX手法を統一的に理解したい:デジタル時代の顧客・自社・競合

分析屋の下滝です。

この記事では、他の記事の連載で議論したDX手法理解ためのモデル(枠組み)をスピンアウトして議論していきたいと思います。

この数年で、毎月のようにDX関連の書籍が発売されています。内容としては、数年のリサーチに基づくものや、特定の業界・業務(マーケティング、営業、物流、店舗等)に特化したもの、様々です。

悩ましいのは、それぞれがそれぞれのDXの定義、関心の範囲を持つことです。そして、互いの共通点や差異があまり議論されていないように見えることです。結果として、DXに取り組む企業は、どのDXの話を採用するのか、あるいは、どのDXの話をベースにして自社の取り組みとして修正して使うのかということ自体を決める必要に迫られます。

本記事では、この課題に対する直接的な解決策ではありませんが、各種DXの手法を説明できるような共通の要素は何かという抽象的な問いに答えていきたいと思います。

ヒントとしては、3C分析として有名なフレームワークがいいのではと考えました。3C分析は、たとえば、次のような説明となります。

3C分析とは、外部環境の市場と競合の分析からKSFを見つけ出し、自社の戦略に活かす分析をするフレームワーク。3Cとは、「市場(customer)」「競合(competitor)」「自社(company)」の頭文字。

https://mba.globis.ac.jp/about_mba/glossary/detail-12524.html

ただし、本記事では、3C分析の詳細とは関係なく、
「市場(customer)」
「競合(competitor)」
「自社(company)」
という要素の考えのみを拝借して議論したいと思います。

では、これら3つのCとDXとは、どのように関係するでしょうか。本記事では、各Cにおいてデジタル化が進むという表現での理解が分かりやすいのではないかと考えました。つまり、市場・顧客がデジタル化し、競合がデジタル化し、自社がデジタル化する、ということです。

3DCモデル

まずは、企業と顧客の視点から考えていきます。

顧客と企業の関係:一般的に企業そのものは、「顧客が期待する製品やサービスを提供する」ということにあるとここでは考えました。

自社と競合の関係:別の視点としては、競合他社との競争の視点も考えられます。企業は、顧客が期待するものを競合企業より優れて提供できなければ競争に負けると考えられます。企業は「自社としての企業」と、「競合としての企業」に分けられます。

3Cモデル

この図では、「顧客」「自社」「競合」の要素からなる関係を表しています。「自社」の定義は、比較的明確ですが、「顧客」や「競合」の定義はもう少し明確化が必要になるかもしれません。ここでの顧客は、「市場」と考えたほうが良いかもしれません。自社にとっての既存顧客や潜在的な顧客、離反した顧客が含まれると仮に考えておきます。

次に、DXの視点から考えます。

DXの領域は、自社の組織能力に関する議論により焦点を当てているように思えます(『DX実行戦略』の書籍など)。競争に勝つためには、自社の組織変革が必要であるという視点です。特に、デジタル技術とデジタルビジネスモデルを駆使し、市場での競争関係に変化をもたらすデジタル・ディスラプターとの競争に関係します。DX領域の関心は、この競争における従来企業での組織変革の難しさに焦点がありそうです(『DX実行戦略』『デザインド・フォー・デジタル』の書籍など)。ここで、デジタル・ディスラプターが驚異となるのは、まさに顧客中心であること、つまり、顧客が期待するものを提供するためです。そして、DXの視点では、顧客自体も製品・サービスのデジタル化を期待すると捉えます。

キーワードはデジタルの出現であると考えられます。ここで、デジタルやデジタル技術とは何かの定義はここではあまり拘らないでおきます。

次に、DXの視点をもとに、もう少しこの図に要素を追加してみます。上記の図に「製品・サービス」と「組織能力」の要素を追加しました。「組織能力」には、「製品・サービス」を提供するために必要となるような、人やインフラ、データなど様々な要素を含むとここでは考えます。自社と競合は企業としては同じですので、同じ要素との関係を持ちます。

3Cモデル

各要素の関係は以下のように捉えました。

顧客と製品・サービスとの関係:「顧客」は、顧客にとっての課題を解決することを期待して「製品・サービス」を購入し、使用します。
自社や競合と製品・サービスとの関係:「自社」や「競合」は、「顧客」の期待に応えるために、「製品・サービス」を開発します。
自社や競合、組織能力、製品・サービスとの関係:「自社」や「競合」は、「製品・サービス」を提供できるために「組織能力」を備えている必要があり、その能力の構築を行います。

次に、DXの領域の要素を考慮するために、先程の3Cモデルの図を「デジタル対応化」された視点で表すと次のような図になると考えました。3DCモデルと呼んでも良いかもしれません。「デジタル対応化」の定義はもう少し深く考える必要があります。「デジタル適応」でも良いかもしれません。

3DCモデル

ここでは、自社や競合が「デジタル対応」できているとは、「デジタル製品・サービス」を提供できており、提供できるための「デジタル組織能力」を構築できていることを意味します。もちろん、提供内容や能力には段階や程度があると考えられます。「デジタル製品・サービス」と「デジタル組織能力」の定義は、明確化が必要です。

顧客が「デジタル対応」できているとは、定義が難しいです。たとえば、デジタルに慣れているといったことや、デジタルと非デジタルの選択肢があれば、デジタルをより好む、といった傾向があるなどが考えられます。

3Cモデルと3DCモデルの関係は、非デジタルからデジタルへの変化として関係づけられます。もちろん、中身が完全にデジタルのみになるわけではありませんし、デジタルに向けての段階的な変化が考えられます。割合が変わると言っても良いかもしれません。

このデジタルへの変化(デジタル対応化)は、各要素で発生すると考えられます。

次に、ここでは、まず、顧客、自社、競合のみをとりあげ、デジタル対応化へのどのような変化のパターンがあるのかを考えてみます。組み合わせは以下の6つとなります。
1.顧客のデジタル対応化 → 自社のデジタル対応化 → 競合のデジタル対応化
2.顧客のデジタル対応化 → 競合のデジタル対応化 → 自社のデジタル対応化
3.自社のデジタル対応化 → 顧客のデジタル対応化 → 競合のデジタル対応化
4.自社のデジタル対応化 → 競合のデジタル対応化 → 顧客のデジタル対応化
5.競合のデジタル対応化 → 顧客のデジタル対応化 → 自社のデジタル対応化
6.競合のデジタル対応化 → 自社のデジタル対応化 → 顧客のデジタル対応化

各パターンの意味を見ていきます。もちろん、各要素のデジタル対応化の定義がまだ明確ではありませんので、現時点での考察となります。

1.顧客のデジタル対応化 → 自社のデジタル対応化 → 競合のデジタル対応化

まず、顧客のデジタル対応化から開始されるパターンです。顧客の変化に対応できるように、次に、自社のデジタル対応化が行われます。競合は、自社の次にデジタル対応化がされます。

理想の形の一つかもしれません。ここにはDXの課題は無いかもしれません。競合より先に顧客の変化に対応できている組織であるためです。

2.顧客のデジタル対応化 → 競合のデジタル対応化 → 自社のデジタル対応化

まず、顧客のデジタル対応化から開始されるパターンです。顧客の変化に対応できるように、次に、競合がデジタル対応化を行います。自社は、競合の次にデジタル対応化されます。

DXの典型的なパターンの一つかもしれません。競合より先に顧客の変化に対応できていないためです。また、自社の変化自体が難しいためです。

3.自社のデジタル対応化 → 顧客のデジタル対応化 → 競合のデジタル対応化

まず、自社のデジタル対応化から開始されるパターンです。実例があるのかは分かりませんが、自社の提供するデジタル製品・サービスを使うことで、次に顧客のデジタル対応化が起こります。次に、競合がデジタル対応化を行います。

理想の形の一つかもしれません。ここにはDXの課題は無いかもしれません。顧客や競合より先に顧客の変化に対応できている組織であるためです。

4.自社のデジタル対応化 → 競合のデジタル対応化 → 顧客のデジタル対応化

まず、自社のデジタル対応化から開始されるパターンです。次に、競合がデジタル対応化を行います。実例があるのかは分かりませんが、自社や競合の提供するデジタル製品・サービスを使うことで、次に顧客のデジタル対応化が起こります。

理想の形の一つかもしれません。ここにはDXの課題は無いかもしれません。顧客や競合より先に顧客の変化に対応できている組織であるためです。

5.競合のデジタル対応化 → 顧客のデジタル対応化 → 自社のデジタル対応化

まず、競合のデジタル対応化から開始されるパターンです。実例があるのかは分かりませんが、競合の提供するデジタル製品・サービスを使うことで、次に顧客のデジタル対応化が起こります。次に、自社がデジタル対応化を行います。

DXの典型的なパターンの一つかもしれません。競合より先に対応できていないためです。また、自社の変化自体が難しいためです。

6.競合のデジタル対応化 → 自社のデジタル対応化 → 顧客のデジタル対応化

まず、競合のデジタル対応化から開始されるパターンです。次に、自社がデジタル対応化を行います。実例があるのかは分かりませんが、競合や自社の提供するデジタル製品・サービスを使うことで、次に顧客のデジタル対応化が起こります。

DXの典型的なパターンの一つかもしれません。競合より先に対応できていないためです。また、自社の変化自体が難しいためです。

まとめと課題

考察です。

変化の6パターンのうち、3パターンでDXの課題が発生することが分かりました。ここでは、競合が自社より先にデジタル対応化すること、そして、自社のデジタル対応化自体が難しいときに、DXの課題が発生すると考えました。

今回の内容は、自社および競合のデジタル対応化とは何か、という定義とささなる詳細化を行うことで、さらに詳しい分析ができるようになります。たとえば、自社および競合に紐づく要素としては、今回議論した
・製品・サービス
・組織能力
だけでなく
・ビジネスモデル
も考えられます。
また、これらは、デジタル対応化できる要素であると考えられます。
・デジタル製品・サービス
・デジタル組織能力
・デジタルビジネスモデル

まとめると、今回の記事で議論したモデルを用いて、DXの各手法に応じて、たとえば、次のようなことができるようになると考えられます。
・各要素に紐づく新たな要素の追加
 ・顧客、自社、競合レベルと紐づくのかもしれませんし、組織能力やビジネスモデルと紐づくのかもしれません。
・各要素を変化させることの難しさ
・各要素の変化が顧客とどのように関係するのか
・各要素の変化が競合とどのように関係するのか

たとえば、あるDX手法に対し、
・どのような要素を扱っているのか
・その要素の変化させることの難しさをどのようにとられているのか
・その要素の変化させることと顧客とをどのように関係づけているのか
・その要素の変化させることと競合とをどのように関係づけているのか
といったことを、今回のモデルをもとに同じ枠組みで分析していけると考えられます。

たとえば、『DXナビゲーター』では、次のような要素が議論されています。
・組織
・テクノロジー
・プロセス
・リーダーシップ
・人材
・文化
今回のモデルの表現力で表現できるかは検証が必要ですが、少なくとも自社の要素との関係がありそうです。

まとめ

本記事では、近年、さまざまなDX手法が提案されている現状における悩みとして、どの手法を選択すべきかの判断の難しさがあることに着目しました。

選択するにあたっては、各手法の共通点や差異が分かりやすいことが望まれます。そのためには、各DX手法を同じ枠組みの中で議論できることが必要ではないかと議論しました。

そして、各DXの手法を統一的に説明するための出発点となるモデルを議論しました。このモデルは、3C分析にヒントを得て、顧客、自社、競合の3つの要素からなるモデルです。

DXとこのモデルを関係付けるにあたり、各Cにおいてデジタル化が進むという視点での議論を行いました。そして、DXの課題は、競合のデジタル化よりも自社のデジタル化が遅れる場合に発生すると考えました。

次回は、具体的にDXの手法を取り上げて、このモデルの表現力を評価していきます。

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