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事後感

滑らかに道を走る車の中で、移り変わる見慣れた景色を視界に映しながら、下腹部の重みを感じる。痛みとか、そういう不快な感覚ではない。じんわりとした、心地よい、重み。

口の中には、今しがた味わっていた大好きな味が、まだ残っている気がする。元気が出る、でも、甘くてとろけそうな、大好きな味。

少し腰を浮かせて、少しだけ座っている位置をなおす。その動きに合わせて、私の髪や衣服から大好きな匂いが漂う。ほのかに香る、その残り香をもしっかりと捉えた私の嗅覚。

いろいろな角度から、いろいろなタイミングで、さきほどまでの幸せな時間を脳裏に思い起こしてくる。

毎日でも味わいたいと思う。
大好きだから。



中には、「いくら大好きでも、流石に毎日は飽きるでしょ。」という人もいると思う。
「飽きなくても、毎日毎日繰り返したら、身体を壊すよ。」という人もいると思う。

実際、私の場合は、どうなんだろうか。
残念ながら試したことがないのでわからない。
でも、なんだか大丈夫、むしろ調子上がっちゃうんじゃないかという謎の自信がある。


だって、大枠では同じ行為であっても、その中身はさまざまに工夫できる。
だから、体調に合わせて、アレンジを加えればよいし、飽きてきたら、味付けを変えたらいい。
そうしたら、毎日でも身体を壊さないし、飽きないと思う。
根本的に大好きなのだから、それくらい、できると思う。


なぜこんなに好きなのか。
自分でもうまい言葉で説明できない。
ただ、好きなのだ。
考えると、ただ思うのだ。「あぁ、好きだな。」って。



やっぱり、毎日でも味わいたいと思う。
大好きだから。


それが実現したときに、体調や飽きについては心配していないけれど、ちょっと不安なこともある。
それは、この行為が当たり前になって、ありがたみを感じなくなってしまうのではないか、ということ。

今、私が感じている、「事後感」。
この幸せな気持ちを感じ、味わうことができない人間になってしまうくらいなら、特別な日だけの楽しみにしておいたほうがいいのかもしれない。


でも、1か月期間が空いたら、だめだと思う。少なすぎる。
じゃあ、半月?いや、1週間?
うーん、3日?

やっぱり、毎日でも味わいたいと思ってしまう。
大好きだから。


そんなことを考えているうちに、ぼーっと視界に映していた景色に、見慣れたボロアパートが映りこんできた。家に着いたのだ。
いつものように自分に指定された駐車スペースへ車を入れ、エンジンを切る。
いつの間にかあたりも暗くなっていて、眠気を感じる。
このまま、この幸せな気持ちを抱えたまま、眠ってしまいたい。

だけど、流石にそれはよくない。
この「事後感」は大切だし、大好きだけども、けじめはつけなくては。

自宅のカギを開け、身体を滑り込ませた私は、そのまま脱衣所へ向かった。
決心が鈍らないうちに、
睡魔に負けないうちに、と思いながら、
その焼肉臭い衣服をすべて脱ぎ、洗濯機に突っ込み、シャワーを浴びる。


あー、やっぱり、毎日でも味わいたいと思う。
大好きだから。焼肉。

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