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不思議なエレベーター

図書館に用事があり、運転していた。周辺でイベントが開催されていることもあって、いつもより車が多い。図書館と繋がっている駐車場は、その入り口へ向かうための交差点が渋滞しているようだった。少し歩くことにはなるが、図書館の隣の大きめの立体駐車場に停めることにした。ここも図書館と連携しており、図書館の認証機に駐車券を通せば2時間まで無料で利用できる。

ちょうど電車が到着したタイミングだったのか駅から歩いてきた人々が横断歩道を渡る。人はいるが決して多いわけではないので、絶妙に途切れ途切れに列をなしており、少しイライラしてしまう。いけないいけない。歩行者優先
。優しい心。私は優良ドライバー。

駐車場に入り、空いているスペースを探してどんどん進んでいく。空いているけど、ここは違うなと思うところを2、3回スルーしながら、気に入ったところを見つけ、駐車する。
5階かあ。結構登ってしまった。
でも、低層階であってもエレベーターから遠いところに停めるより、高層階でもエレベーターから近いところの方が、結果的に自分が歩く距離は少なく済むので、これでいい気がする。

エレベーターに乗り込み、1階のボタンを押す。
大きな鏡がついているので一応身だしなみをチェック。なんだかクマがすごい気がする。クマじゃなくて、くすみってやつかもしれない。いつまでも若いつもりでいるわけにはいかないんだなあ。なんて思っていると、近くから誰かの話し声が聞こえた気がした。
私しか乗っていないのに。心霊現象か何かか?と思ったのとほぼ同時に3階でエレベーターが停まった。
ここから乗り込んでくる人たちの話し声が聞こえてきていたのか。駅から近いものの、観光地というわけでもないから、そんなに人に出会うことはないのだけど、珍しいこともあるものだと思いながら、開いたドアの方に視線を送ると、ベビーカーのようなものが見えた。ほぼ反射的に、乗り込むのに時間がかかるだろうと思い、エレベーターの中から「開」のボタンを押す。

「どうぞ〜。」「どうも〜。」と言い合いながら、小型犬を抱えたおじさんとベビーカーを押したおばさんが乗り込んできた。よく見ると、ベビーカーではなく、ペットカートで、小型犬が3匹乗っていた。
「吠えちゃダメだよ〜。」とおじさんが自分が抱いている犬に言う。
「わん!!!!!」と犬が返事をする。
「だから、吠えちゃダメだって〜。」

正直に言おう。
私は犬が好きである。
そもそも動物が結構好きだし、触れ合える小動物なんかはさらに好きだ。その中でも、コミュニケーションが取れるような気がする生き物はもっと好きだ。
つまり、犬は結構大好きだ。

とはいえ、ここは狭いエレベーターの中。
一気に人間の数より犬の数の方が多くなってしまった。
さらに、4匹と2人の家族の群れに、私という異端な存在が一頭紛れているような状態である。
とても居心地が悪い。

そして吠える声も響く。ある程度狭い箱の中で犬に吠えられたことはあんまりない。

あまりジロジロ見るのも失礼かなと思うし、犬を刺激して鳴かれてもアレなので、視線を宙に彷徨わせながら考える。

この場合、もし、私が犬アレルギーだったら、どうなるんだろう。
私は「やべ、犬が乗ってくるぞ」ってなった時点でエレベーターを降りなくてはいけなかっただろうか。
まあ、実際に触るわけではないし、今の時代、まだマスクをしていることも多いし、発作まではいかないかもしれない。とも思う。
でも、犬が苦手な人は結構いるよな。
ちょっと嫌だなくらいならいいけど、過去に噛まれたトラウマがある人なんかは、この空間に、本人の覚悟していないうちに、許可を出すまでもなく、一緒に閉じ込められてしまう状況って、かなり怖いだろうなと思う。

それにしても、おじさんはずっと腕の中の犬に赤ちゃん言葉で話しかけ、おばさんはそれを幸せそうに黙って見ている。なんなんだ。どこに行くんだ。何をするんだ。

エレベーターが1階についた。
私はまた、エレベーターの中の「開」ボタンを押す。
おじさんが黙って降りる。いや、さっきまで犬にはめっちゃ話しかけてたのに、そこは黙るんかい。別にお礼言われたかったわけでもないけど!
「あっ、ぶつかっちゃった。」おばさんがペットカートの操作を誤り、ゴツンッとドアの端にぶつかる。でも、中の3匹の犬は微動だにしない。いや、今鳴かんのかい。大丈夫?生きてる?


とても濃厚な時間だった。
3階から1階へ降りるだけの短い時間だったはずだが、濃厚な時間だった。

しばらくして、図書館で用事を済ませた私は、駐車場へ戻った。エレベーターの前の精算機に駐車券を入れ、精算処理を行う。2時間以内なので、無料だ。
そうこうしているうちに、背後に他のお客さんがやってきた気配を感じた。
はやく精算機を明け渡さなくちゃ!と思ったが、そのお客さんは、精算機をスルーし、エレベーターのボタンを押した。私は出入り口でモタモタしたくないので先に精算しておきたいタイプだが、別に出入り口でもできるし、ここで精算機使わないパターンだったかー。さてさて、今日は5階に停めたんだったな。それにしても、行きも帰りもエレベーター相乗りになるなんて、今日はやっぱり混んでるのかな?
と思いながら振り返ると、

「え。」

なんとその人は、うどんか何かの入ったどんぶりとおかずの小鉢が2つくらいと漬物か何かが入った平皿を載せたお盆にふんわりとラップをかけて持っていた。

私の思わず漏れ出た声を聞かれたのか、視線に気付いたのか、微妙に身体をズラし、お盆の上があまり見えないように隠してしまう。残念。
でも、ガッツリ出前みたいな感じだったけど、なんなんだ?車の中で食べるの?サンドイッチとかならわかるけども。テイクアウト用の器じゃないし、がっつり定食をそのまま運んでるみたいな感じだったよな。なんなの。


不思議な体験ができるエレベーター。

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