本日の「読了」

一気読みしてしまった。
 要因は二つ。テクノロジーに興味を惹かれたこともあるが、本書の大半を占める、筆者の自伝的な部分が面白かったためである。とりわけ、イギリスのエスタブリッシュメントのカルチャーは興味深い。

ピーター・スコット・モーガン『NEO HUMAN ネオ・ヒューマン 究極の自由を得る未来』(藤田美菜子訳 東洋経済新報社 2021)

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原題は "Peter2.0:The Human Cyborg"。
 2017年に運動ニューロン疾患ALSと診断された筆者ピーターが、この疾患の最終態(身体に閉じ込められた状態)を見越し、その状態にあっても、身体(といった物質的なものにかぎらず、時間や心)の自由を確保するために、自分の体をサイボーグ化する実験に挑む──これは、フィクションではなくノンフィクション、それも現在進行形の書。
 本書では2020年初頭までのことが書かれているが、進行形ゆえ、最終章は、フィクション(といったら著者は怒るだろうが)の「ピーター3.0」のいる世界。
 テクノロジーの部分に焦点があるというわけではなく、どちらかといえば、本人の自伝的要素が強く、それが、本書を読みやすく(もちろん反感を覚える人もいようが)している。
 
内容に関して思うところは当然のことながら、ひとそれぞれ。余りあれこれ書くとネタバレなのでやめておこう。
 ALSの最終形を見越し、早々に身体改造を行う姿勢は、久坂部羊氏の小説『廃用身』に通じるものがあるが、自らの意志で、自分らしさを保つために、行うという点が決定的に異なる。そして、まだ道半ばの行動が同じ疾患を持つ人びとに希望を与えているという点も注目すべきところである。患者ばかりでなく、手立てがないと考えている医療者側にさえも。
 ふと思う──日本で医師に安楽死を依頼し成就させたALS患者がいたが、あのかたが、そして、安楽死させた医者が読んでいたらどう思っただろうか、と。

最後に個人的な興味。
 筆者が書いているように、サイボーグ化でALSが原因で亡くなることはないにせよ、がんや心筋梗塞、老衰で亡くなることはある。私が気になったのは、認知症になったらどうなるのだろう? ということ。機会があれば聞いてみたいものだ。

加齢や事故などによる障害を負うことと同様、自分だったらどうするのか──、本書を閉じた後、我が事ととして、しばし考えるのは無駄ではない。

著者の現在の活動を知りたいときは本書に登場する、著者設立の財団サイトを覗いてみるとよい。本書を視覚的に補完してくれる。

https://www.scottmorganfoundation.org/

[2021.09.03. ぶんろく]


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