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その国の王さまは無料シールでした。 王国では、あらゆるものに[無料]と印字されたシールが貼ってあります。衣食住、生老病死、喜怒哀楽、ゆりかごから墓場まで[無料]でした。おでこや肩口に無料シールを貼った老若男女とすれ違うこともあります。 生活費のほとんどが無料ですが、王国の物価がほかの国に比べて安いわけではありません。[無料]シールを有効にするには、支払いのとき、王さまが発行する登録無料のカード提示が必要です。 カードを持たないほかの国から来た人は、定価で買うしかないので
その国の王さまはドローンでした。 身軽で器用で小回りの利く王さまで、朝な夕なに王国を隈なく見回り、人びとが暮らしに困っていないか、迷子はいないか、壊れた橋や道路はないか見守っています。 空を見上げると、小さいドローンをたくさん引き連れている王さまの姿を見ることができます。 王さまが、新しく生まれたドローンを連れて王国のあるべき姿を見せ、何を守るのかを教えているのです。照明を灯した夜間訓練は人びとの目を楽しませます。 王さまはドローンが生まれる瞬間に立ち会います。新しい
その国の王さまは植木鉢でした。 王宮のテラスにすこしくすんだオレンジ色のお姿であらわれ、暖かいお声で「余に育てられぬものはない。どのような種でも必ず芽吹き育てて見せる」と人びとに語りかける頼もしい王さまです。 王さまの言葉に嘘はなく、サクランボを埋めればサクランボが、麦の種を埋めればスイカが、明太子を埋めれば明太子が育ちます。 おかげで王国の人びとは食べ物に恵まれ豊かな暮らしを送っていました。 あるとき、悪ガキが夏休みの宿題を王さまにやらせようと考えましたが、答えの書
その国の王さまはバス停でした。 ふくよかなお顔ですがおからだはやせすぎなくらい細く、それでいてどっしりと安定感抜群の王さまで、王国の人びとに愛されていました。 王さまは王宮のなかでふんぞり返ることなどなく一日中外にいます。 夜は星を見上げ、昼は強い日差しに焼かれ、雪の日も嵐の日も王国の人びとの暮らしを見守っていらっしゃいました。 王さまは優しかたなので、訪れる人のために雨風や日差しを避けるこじんまりとした待合所を作り、座りここちのよい椅子、夜は心やすらぐあかりを、そう