チューリップラジオ6

せい子さんとりょうさんははっきり言ってお似合いだ。私の入る隙なんて一ミリも見つからない。社長は吉井さんと言う優しい男の人であった。30代前半と言った感じで若く、色々と理解しあえる感じがした。まだまだ小さなモデル事務所だから忙しいらしく、一人一人の裁量も多いらしい。私は忙しくしたかったからちょうどいい。

事務所で2時間ほど話していただろうか、今からせい子さんの雑誌の撮影があるらしく、それを見学させてもらえることになった。メイクアップから衣装合わせから間近で見る。プロと呼ばれる人たちによってせい子さんの美貌が際立っていく。これが彼女たちの仕事だとして、なんて素敵な仕事なんだろうと思った。私も力になりたいと強く思った。

撮影が始まる。カメラマンの指示に従ってせい子さんが動く。カーキと藍色が混ざったような麻の長いスカートが夏らしく揺れる。
「せい子ちゃん、もっと柔らかく。固いよ。もっと自由にねー。」
カメラマンがしきりに声をかける。せい子さんは戸惑いながら動くが、だんだんと余計に固くなっていくようだった。それもそうだ、カメラマンの言葉が抽象的すぎる。それに対して言葉というものだけが彼女にはっきり聞こえてしまっている。言葉の正体がわからないまませい子さんは動いている。せい子さんの動きが急に止まった。それでもシャッターの音はなり続ける。
「ほら、せい子ちゃん。スカート持って」
カメラマンもまだ声をかけ続ける。居ても立っても居られなくなった私が一歩踏み出した時、吉井さんがカメラマンに駆け寄った。
「少し休憩させてもいいですか」
せい子さんはすみませんと一言いうと早歩きでスタジオを後にした。すると隣にいたりょうさんが私に言った。
「たまにあるんだよ。せい子捲し立てられるの苦手でさ。カメラマンにも言ってあるんだけど、どうしても、ああゆう職業の人は熱が入るとああなってしまうんだよ。しょうがない。」
よくあることだというけれど、なぜ誰も追いかけないんだろう。ただせい子さんが心配だった。
「少し見てきます。」
りょうさんにありがとうと言われながら私もスタジオを後にした。しばらく歩くと女子トイレがあった。中に入ると手洗い場でしゃがみこんでいるせい子さんがいた。綺麗なスカートがトイレのタイルに広がっている。私はほんの気持ちだけスカートを持ち上げ、せい子さんに近づいた。
「大丈夫ですか」
せい子さんは泣いてはなかった。しかし呼吸が荒く、落ち着けるように胸に手を当てていた。
「初めてきてくれたのに恥ずかしい。私よくこうなるの。知っておいてね。」
そういって笑うけれど凄く辛そうだった。
「あのね、薬がカバンの中にあるのとってきてくれる?」
「わかりました。すぐ持ってきます。」
私は急いで楽屋へ向かった。せい子さんのカバンからポーチを出して薬を見つけた。その後自動販売機で水を買うと、さっきの女子トイレに戻った。しかし、そこにせい子さんの姿はなかった。不安になりながらスタジオへ戻ろうと扉の前へ行くと中からシャッター音とカメラマンの甲高い声が聞こえる。扉を押しあけるとライトに照らされてポーズをとるせい子さんがいた。彼女は笑顔だった。私は額に汗を浮かべながら、手にある薬と水を見つめた。

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