あおぞらの憂い11

「マユはさ、映画どうだった?」
私が他人に映画の感想を話したのはこれが初めてだったように思う。
「すごく綺麗だった。映像が。ストーリーは普通だったけどさ。教会のシーンのステンドグラスのとことか...綺麗だった。」
「僕はあのベッドシーンが好きだったな。すごく情熱的で」
この人は私があえて言わないところを軽々言ってしまった。
「僕があんな恋愛できた日には死んでもいいよ」
少し悲しそうに笑う綺麗な顔。その言葉でやっと思い出した。この人は一度、本当に本当に死のうとしたんだ。軽々放り出された言葉だったはずが沈黙で急に重さを持ちだした。私は何も言えずに頼んだアイスコーヒーを見つめた。
「そろそろ帰ろうか」
少し気まずい空気で私たちは店を出た。

「こないだのさ、命助けてもらったお礼でコーヒーって軽すぎるよね。これからも少しずつだけどお礼させてくれる?」
彼は恐る恐るという感じで私に聞いてきた。外はすっかり大雨に見舞われていた。
「ありがとうございます」
たぶん私の声はほとんど雨にかき消されていた。
「あの少年も仲良いみたいだし呼ぼうよ。お金はあんまりないけどね」
駅まで傘をさしながら一緒に歩いた。途中、雨の音で何度も聞き返した。聞き返すたびに傘をあげて顔を覗き込む彼は、きっと女の子に慣れているんだろう。ソラと同じだ。だとしたら深入りしてはいけないと思った。駅に着いて連絡先を交換すると、彼は、コウシは来た道をまた戻っていった。

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