あおぞらの憂い14
コウシは何かあるとすぐにメッセージを送ってくる。野良猫の写真やスーパーで買った刺身の写真。可愛いですね。美味しそうですね。そんな意味不明なやり取りが私にとっての日常になってきていた。たった一度、いや、自殺を止めた時を入れると二度だけしか会ったことがない。コウシのことはよく知らないし、どこに住んでいるのかもわからない。けれど彼の日常には幸せがたくさんあるのだとわかった。こんな人が自死を選ぶとは到底思えなかった。
23時ごろ、そろそろ寝ようと布団に入ると電話が鳴った。コウシだった。
「あー、出てくれた。マユちゃん、お願い。あそこの海に来てほしい。」
いつも余裕のある彼の声は、弱々しく怖かった。私は半袖の寝巻きに上着を羽織ると海へと向かった。
彼はブルーのズボンに白いtシャツで防波堤に座っていた。仕事帰りであろう。私は背後から恐る恐る声を掛けた。
「コウ、大丈夫?」
彼は気づいていないのか振り返らない。私は少し怖かったがもう一度勇気を出して近づくと、肩を叩いた。コウシは振り返ると泣いていた。そして無線のイヤホンを外した。
「ごめん、ありがとう。来てくれたんだ。本当に。」
コウシの泣いた顔は月の光が砂浜に反射してラフ版で照らされているようだった。そして私も隣に座り、何があったのか尋ねた。すると彼はいつもの飄々とした顔に変わり、涙を素手で拭うとゆっくり話してくれた。
コウシは派遣の工場勤務を始めた。駅前に朝早くから10人くらいが集合して、大きめのバンに乗せられ工場に連れていかれる。そして無心で作業し、また駅前に10人ぴったりが返される。帰って来た頃にはもうこんな時間らしい。
「俺はこの世界の労働という労働のすべてが向いていないらしい。真面目な顔して働いているやつらを見るとどうしてこんなところでそんな顔をしていられるんだって吐き気がして。こないだ、作業中に倒れたんだ。そうしたら俺またトラウマになっちゃったみたいで。今日、工場へ行く車に乗っただけで過呼吸が止まらなかった。もう無理だ。」
そういうとコウシは俯いた。私は背中をさすることしかできなかった。