あおぞらの憂い18

私は24歳で、何を始めるのにももう遅い。私は初めから、夢を持つこと自体を諦めていた気がする。小学校の頃の卒業アルバムには確か絵描きになりたいと書いていたが、心のどこかでなんとなく無理だと察していた。小さい頃はなぜか将来の夢を聞かれることが多く、その度にただ好きだった絵を無心であてがった。そうしているうちに私は絵がすこぶる上手くて絵描きを目指しているというイメージが付き纏い、そんなに話したこともない同級生から絵を描いてくれと頼まれることがあったし、描いてあげると大きな声で喜んだ。そういうこともあれば、掃除の時間にちりとりでゴミを集めていたらその絵がくしゃくしゃになって出てきたこともあった。私は特にそれを悲しまなかった。所詮こんなものなんだ。貯金もなく、母がどれくらい貯めているのかわからないがきっとそんなに多くはない。母の老後のことも考えると、自分の世話は自分でしなければいけない。人なんてみんな自分のことで精一杯なんだから。


夏休みも終わる頃、私はソラとアミとフウカに誘われて市内のショッピングセンターに行った。アミとフウカに手を引っ張られて可愛らしい服屋さんに入る。
「これはどう?似合ってる?」
今度、修学旅行があるらしくその時着る服を買いたいらしい。
「似合ってるよ」
アミはそういうと嬉しそうにしていた。一方でフウカは直感で服を選ぶとすぐにレジに持っていった。
「あの子、気に入ったらすぐ買っちゃうんだよ。お金持ちはいーねー。」
とアミは羨ましそうにしていた。
「私は時間をかけて本当に欲しいと思った服だけを買うよ。」
そういうと
「おしゃれなマユちゃんがいうならそれが正解だね」
とまた嬉しそうにした。そのあとお昼になったので、フードコートに入ってラーメンを食べた。アミとフウカはもう少し見たい店があるからといって急いで食べると走って出ていった。
「ソラくんは、買わなくていいの?」
私は聞いた。さっきからアミとフウカの服を見るのについて行っているだけだった。
「僕はいいの。二人の買い物についてきただけだから。」
私はそんなソラを見かねて服を見に行こうよと半ば強引にメンズの服屋さんへ向かった。私が色々服を見せるけれどソラの反応はいまいちだった。私もファッションに関しては疎く、男のファッションなんてほとんどわからなかった。けれど私はなぜかソラを手ぶらで帰したくなかった。
「これ、ソラくん似合うよ」
そういって白いシャツにワンポイントがついている服を見せた。するとソラは少し考えると試着してみるとフィッティングルームへ入った。しばらくして戻ってくるとソラは
「僕、これ買うよ。ありがとう。」
といってレジへ向かった。私はふと昔の自分を思い出した。欲しくもないキーホルダーが丁寧に包まれていく。その時の涙を。私はレジに並んでいるソラの手を掴み、シャツをあったところへ戻すとショッピングセンターを出た。
「マユさん、急にどうしたの。」
「ごめん、私、無理矢理で。買わせようとして。」
「僕は、あのシャツが欲しかったから買おうとしたんだよ。マユさん、無理矢理じゃないよ。」
というと俯いている私の顔を覗き込んだ。私はいまどんな顔をしているのだろう。恥ずかしいというか、大人げがなかった。
「ソラくんは気づいてないと思うけど、ソラくんは人を気遣いすぎだよ。気遣いすぎて、優しすぎて、それがもう自分の意思みたいになっている。本当は服なんていらない。そうでしょ。」
私は少しソラを責めるように言った。
「僕は、そうだね。服なんていらない。だけど全部自分の意思だよ。マユさんが勧めてくれた服を買いたいと思ったんだ。自分の意思で。」
「僕は周りの人の幸せが僕の幸せでそれが僕の意思になるんだ。わからないかもしれないけれど、要するにマユさんがこうして服を選んでくれたことが嬉しかった。」
ソラは私より幾分も落ち着いていて、考え方も大人で、私の想像の何重も上をいく。きっと自分より、アミやフウカを大切にしてることは見ていてわかるし、同じように家族や兄弟も大切にしているのだろう。何よりソラの目がまっすぐだった。ソラの言葉もまぎれもないまっすぐな気持ちなんだ。私はそうして受け止めると少し考えてから言った。
「ごめん。もう一回あのシャツ買いに行こう。それと私がソラくんに買ってあげたいものがあるから、もちろん受け取ってくれるよね?」
そういうとソラは少し困った顔をしたが、嬉しそうだった。私たちは店に戻り白シャツを買い、文房具屋さんに行って筆箱とシャープペンシルと消しゴムを買ってあげた。これでテストの成績上がらないと困るよ。と私は言った。

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