あおぞらの憂い15

昨日のことでコウシが泣いてしまうほど仕事が嫌いなこと、自殺してしまうほど心が弱いことを知った。しかし、彼があんなに死にたがっていることに誰が気付くであろう。感情的などとは無縁で飄々としている。私を家に送り、やっぱり仕事やめるわーと言いながらへっちゃらな顔をして帰っていった。私はなんでこんな奴を真剣に慰めていたんだと少し恥ずかしくなりながらも、頼られている気がして嬉しかった。

今日は久しぶりに絵を描くことにした。携帯のアルバムを遡って、描けそうな写真を探す。暗闇に浮かぶ歩行者用の赤信号。これにしよう。昔から赤信号が好きで、無意識に写真を撮ってしまう。私は他にも学級閉鎖が好きだったし、避難訓練が好きだった。ただ従っているだけでいいからだ。学校の帰り道なんかもそう。ただ帰るだけでいい。赤信号もそれと同じようにただ止まっていればよくて、その時間は誰も責めてこない。安心していい時間だと思っていた。けれど反対にチカチカしている青信号が嫌いだった。渡るか渡らないか急に選択肢を渡された気がして、心臓がドキッとするからだ。私はそういう選択肢を渡された時いつでもその場に立ちすくんでしまった。そういうことを思いながら色を塗っていく。横にした長方形の紙の中がだんだんと夜の空気を纏っていった。

コウシはきっと青信号のチカチカでも走って渡ってしまう。そして、右折してきた車に急ブレーキをかけられて怒鳴られる。渡りきった彼は向こう側からこちらに向かって怒られちゃったーとヘラヘラ笑うんだろうか。いつか本当に車に轢かれて笑えないときが来るかもしれなくても彼を止めることは絶対にできない。すべて描き終えた後、洗面台でパレットを洗う。黒と赤が渦巻いて流れていったがその二色が混ざって一色になることはなかった。きっと私と彼もそうであろう。あまりにも、なにもかも、違いすぎる。

部屋に戻るとソラから(元気ですか?)とメッセージが来ていた。コウシの話をするとソラは(あまり深入りしない方がいいと思います)と送ってきた。ソラはきっと私を心配してくれている。けれど今もっとも心配すべきはコウシだ。(だって彼、また死ぬかもしれないよ)と送るとソラからの返事はなくなった。ため息をついて携帯を置いた。目の前にある姿見に写った自分がとてつもなく子供っぽく見えた。

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