【乃木坂46】”素材”としての与田祐希

これまで僕は、久保史緒里・山下美月・大園桃子についての記事を書いてきた。それぞれ、どんなタイトルにしたかというと、

『「弱さ」と「強さ」の絶妙なバランス・久保史緒里』
『客観視のモンスター・山下美月』
『憧れを持たない正直者・大園桃子』

である。

3期生で言えばやはり、あと与田祐希を取り上げるべきだろうが、彼女をどう切り取るのが良いか、非常に難しかった。与田祐希が愛されるのは、分かる気がする。確かに、ああいうコがいれば、みんな可愛がりたくなるだろう。しかし、じゃあ、その本質的な部分はどこなのか、ということになると、うまく掴めなかった。

【与田 自分の家の近くをぼーっと歩いて。昼に出て行ったはずなのに、気づいたら夜になっていたり。
山下 えっ…怖い怖い(笑)
与田 昼に防波堤に行って座っていて、別に何もせず日が暮れるまで海を見て。それぐらい、外が好きなんですよね。
山下 すごい…。
―よく今まで生き残ってこれましたね。まあ、そういうエピソードも可愛らしいちゃあ、可愛らしいし。山下さん、与田さんの天性の才能ってこういうところですよね?】「BRODY 2018年4月号」

島育ちの彼女には、自然や動物と関わるエピソードに事欠かない。しかもそれらは、島育ちだから、というレベルを超えているような感じもある。彼女の語る話には、どうも「自我」みたいなものが薄いように感じられるのだ。

【私、家にいたら何も喋らないし動かないし。ケータイをいじるわけでもなく、テレビをつけるわけでもなく、ずっとベッドの上でボーっとしてます。】「BRODY 2018年4月号」

【(撮影の合間に、松村沙友理から)「与田ちゃんって休憩時間、何をするわけでもなく1点を見つめてるよね。普通はケータイを触るとか雑誌を読むとか食べるとかするのに。何を考えてるの?」って言われて、「そういえば何も考えてないなぁ」って(笑)】「BRODY 2018年4月号」

こういう部分から、与田祐希の「作為の無さ」みたいなものは強く感じる。何をしたいのか、自分をどう見せたいのか、という部分に対する関心の薄さが、他のメンバーと比べて段違いだと思う。そういう存在の仕方が、「アイドル」というものと絶妙なミスマッチを起こし、「ただそこにいるだけで成立する」という、与田祐希の特殊性に繋がっている、という部分は少なからずあるだろうと思う。

こういう発言も、その印象を強める。

【自分らしさは自分で見つけるものでもないですよね。見た人が客観的に思うことです】「FLASHスペシャル グラビアBEST 2018年GW号」

これは、齋藤飛鳥の、【だからといって、そういう武器がほしいかと言われると…必要な時もあるんですけど、でもそういうのって周りから付けていただくものだと思うので。】「別冊カドカワ 乃木坂 Vol.2」という発言にも通ずるなぁ、と思う。そもそも乃木坂46には、「自分はこうです!」という打ち出し方をするメンバーはそこまで多くはないが、しかし与田祐希ほど、印象の形成を他人に丸投げしてしまうのも珍しいと思う。

ただ、「作為の無さ」だけのはずがない。確かに、「アイドルになりたい!」という切実さをもって、多くの人はアイドルを目指す。そういう中にあって、彼女の「作為の無さ」は特異ではある。しかし、それだけで戦える世界ではない。「作為の無さ」というのは、外側からの見られ方の話でしかない。じゃあ、与田祐希の内側には、一体何があるのか?

【―与田さんはアイドルとしてこう振る舞おうとか考えていますか?
アイドルだからっていう考えはたしかに私もないかもしれないです。アイドルだからこうじゃなきゃいけないという決まりもないと思うし。それよりも一人の人としてちゃんとすることを考えているというか】「BRODY 2018年6月号」

僕は、この発言がすべてではないか、と感じる。つまり彼女は、常に、「人間としてどう振る舞うべきか」を考えているということだ。「自分がどう見られるか」という部分にエネルギーを割くのではなく、「自分がどうあるか」にエネルギーを注ぐ。そういう思考と経験が、「人間・与田祐希」というものの深みを作り出しているのではないか。

そう考える時、彼女のこの発言は印象深い。

【小学校では、男女の垣根がなかったからケンカもみんな体当たりな感じだったんです。でも中学で、初めて人の陰口や悪口を聞くようになったんです。それが怖くて。長い間、学校に行けなくなりました。家でひたすらテレビやDVDを見る毎日を過ごしました】「乃木坂46×プレイボーイ2017」

ここからは、あくまで憶測でしかないが、他人の悪意を受けて学校に行けなくなってしまった経験は、結果的に、「周りからどう見られても自分は自分と思うしかない」という思考と結びついたのではないかと思う。そして、外側からの見られ方に左右されないように、自分というものを強く持つしかないと思ったのではないか。

【―では、人に左右されるのがイヤ?
山下 そうですね。友達と遊ぶのも好きだけど、ひとりの時間も必要だなと思うので。
与田 うん、すごいわかる。人と一緒にいるのは嫌いなわけではないし、全然楽しいし、友達も大好きだけど…自分でもよくわからないけど、落ち着くんです。】「BRODY 2018年4月号」

自分という存在単体で、「与田祐希」というものを成立させていく、という意識が昔からあったことが、結果的に「作為の無さ」に繋がっていくのだろうと思う。

また、見られ方に影響を受けないというのは、親の教育でもあったようだ。

【小さい頃からずっと「人は人、自分は自分」って親から言われ続けてきたので、この先も環境とかいろいろ変わることがあると思うけど、変わらずに自分らしさを大切に活動したいなと思ってます】「BRODY 2018年4月号」

だから彼女は、作為無く自分を出していくことに抵抗が無いのだろうし、そもそも、外側に出していけるような「自分」というものがあるのだ。

こういう彼女のあり方を、僕は「素材」と捉えた。つまり、多くのクリエイターたちが、「与田祐希という素材」を使って何かしたいと思うような存在なのではないか、と感じたのだ。僕の記憶では、3期生の中で最も早く写真集を出したのが与田祐希だったと思う。しかも、加入してそこまで間を置いていない、かなり早いタイミングだったと思う。僕はその時、「へぇ、与田なんだ」と思った記憶がある。3期生が加入した頃、僕にとっては、大園桃子や山下美月の方が印象が強かった。3期生として初のセンター(大園桃子とWセンター)に選ばれたり、初の写真集の出版が決まったりしたのが与田だったことは、正直僕は驚いた。

しかし、「素材」という捉え方をすれば、分かるような気がする。

僕の印象では、「素材」として必要な要素は、「無色」「可変」だ。「無色」というのは、決まりきったイメージがないということ。この点は、「作為の無さ」という点で完璧にクリアされている。そして「可変」については、与田祐希が、内側に「自分」というものを持っている、という点が重要だと思っている。

アイドルとしての与田祐希は、「理想のアイドル像」を特別抱いてはいないだろう。仮に抱いていたとしても、特別そこを目指しているわけではないはずだ。そういう意味で「可変」なのだが、しかし、「理想像を持っていない」というだけでは弱い。やはり、人間として、内側に何かなければ、そもそも変えようがない。空気を入れて膨らませたバルーンでなら、トイプードルや花など様々なモチーフを作ることが出来るが、そもそも空気が入っていなければ何も作れない。同じように、内側に何かが詰まっているからこそ「可変」であり得るのだ。

そういう意味で、与田祐希は「素材」として非常に優秀なのではないかと思うのだ。「この素材で何かしたい」と思わせる部分があるからこそ、与田祐希というのは、最前線にいられるのではないか、と。これが、なんとなくたどり着いた、僕が考える与田祐希の本質だ。

また、同じ3期生の久保史緒里の、こんな発言も印象的だ。

【久保 そう!実はというか、与田はめちゃかっこいいんですよ!私はそれをずっと言っているんですけど
与田 そんな(笑)
久保 みんなに知ってほしいです。与田のプロ意識は3期生の中でもトップレベルにすごいので。絶対信じてもらえないけど、私はそれを見て学んでいることが本当にあります。
与田 信じられない(笑)!
久保 ホントに!
与田 恥ずかしいなぁ…】「B.L.T. 2020年2月号」

与田祐希からそういう雰囲気を感じる機会はあまりないし、彼女はまた、齋藤飛鳥や星野みなみのように、努力している姿をあまり見せない人でもあるのだろうとも思う。だから、久保の言う「トップレベルのプロ意識」がどう発露されているのか分からないが、しかし、「誰かのために頑張る」という雰囲気は確かに感じる。

【自分主体よりも、メンバーのためとか誰かのための方が頑張れる人たちが集まっているんじゃないのかなって。映画(※『いつのまにか、ここにいる』)を観て、そんな風に思いました。自分のためだったら限界があるじゃないですか。「もうしんどいから、いいや」と思ったら、そこで甘えが出ちゃうけど誰かのためにだったら、より強くなれるというか。
―誰しもこの業界を目指した時は、「自分が輝きたい」という気持ちで入ってくるのかなと思ってて。「誰かのために生きる」とか「誰かのためにステージに立つ」という与田さんの考えは、途中から芽生えたものなんですか。
途中から芽生えましたね。最初のうちは自分のことに必死で、「誰かのために」というよりは自分主体でした。「緊張する、どうしよう、怖い。でも、行かなきゃ」って、そんな心境でステージに立っていたんです。だけど乃木坂46でメンバーと活動していくうちに、どんどんメンバーが好きになって、グループが好きになって。乃木坂46のために頑張らなきゃって、少しずつ変わっていったのかな。
―今、優先順位としては何が一番にあるんですか。例えば「自分が売れることが一番」だったり、「仮に自分が一歩下がることになっても、グループが売れることが一番」だと思っているとか。
やっぱり乃木坂46が一番大事ですね。グループ全体が良い方向へ行ったら良いと思っているし、そこに私に出来ることがあったら良いなと思います。だから…そうですね。
―なんで乃木坂46に対して、そこまで思えるんですか。
むしろ私には乃木坂46しかないんですよね。学校に行ってるわけでもないし、地元にも帰れない。今は乃木坂46しかないから、それ以外が思い浮かばないです。ここが私の生きる場所だから】「BUBKA 2019年9月号」

彼女は、【色々な人がいるのは当たり前だから、向上心は自分の中にあるけど、人と比べるところでもないのかなって思うんです。人と比べると疲れちゃう。】「BRODY 2018年6月号」という発言にもあるように、誰かと比べることもせず、また、【(自分のことは)嫌いでもないし、好きでもない。(中略)自分のことはあまり考えたことないです】「B.L.T. 2019年11月」という発言のように、自分のことも別に見ていない。そんな与田祐希が今、自分の全力を打ち出せるのは、乃木坂46に対してしかない。「ここが私の生きる場所だから」という決意を持ちながら、「作為の無さ」で圧倒する彼女には、これからも「圧倒的な素材感」で、特異なアイドルとしての存在感を出していってほしいと思う。

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