【乃木坂46】迷走するふたり 久保史緒里・山下美月

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<索引>【乃木坂46】
https://note.com/bunko_x/n/n63472c4adb09

久保史緒里と、山下美月は、なんだかいつも迷走しているように見える。迷走というのは、決して悪い言葉ではないつもりだ。自分が今いる場所、これから進むべき場所に対して、悩み、言語化し、行動に落とし込んで、また悩む。そういう繰り返しは、アイドルに限らず、上を上をと目指そうとする時には、大事なものだろう。

ふたりは、同じようなことをインタビューで語っている。

【―例えるなら、自分は今、どんな道を歩んでいるように思いますか?
久保 暗いトンネルを1人、懐中電灯じゃないな…たぶんロウソクとかランプとかを手に持って、恐る恐る進んでいるっていう絵がしっくりきますね。
―その例えの意味するところは?
久保 今、乃木坂46として活動している自分に置き換えるなら、暗いトンネルの中を足場を確かめながら、少しずつ、少しずつ進んでいるような感じなんです。(昨年、約4ヶ月、体調不良で一部の活動を休止していた)休養中は道もないし、ロウソクとかランプのような頼りにできるものもなかったから、恐る恐るながら前に進むことすらできませんでした
―今、手に持っているその灯りは、何を象徴しているんでしょう?
久保 やりたいことへの意思や思いですかね。暗いトンネルの中、燃えている闘志を頼りにしていて。それって自分の中ですごい成長なんですよ!人に話しかけることさえためらってしまうくらい、自分から行動を起こすのが苦手なタイプだったのに、自分の中にある意思や思いを頼りに歩いているなんて。ただトンネルの先の景色はまだ何も見えてはいないんです、真っ暗…(笑)。外が見えて来るまでは、長い長い道のりかもしれません】「B.L.T. 2019年5月号」

【―例えるなら、自分は今、どんな道を歩んでいるように思いますか?
山下 すっごい迷路です。バスラ(バースデーライブ)が終わって、西野(七瀬)さんが卒業されたり、アルバムの製作中だったり、乃木坂全体ががんばるぞってなっている時に、私だけが今、迷走しているように思えて不安になっています。自分のアイドル像―山下美月っていうアイドルがどうあるべきかっていうことにすっごく迷っていて
―それはまた、どうしてでしょう?
山下 先輩方の卒業が続いている中で、選抜に3作連続で選んでいただいたり、卒業した先輩方のポジションをライブで務めさせていただくことも多かったり、そういう時に周りを見たら3期生がすごくいて、乃木坂が変わってきていることを年末くらいから強く受け止めていたんです。そんな中で今年に入ってから、ドラマ撮影など個人のお仕事が続いていて、メンバーに会うことがすごく減ってしまって、テレビや雑誌で乃木坂の活動を外から観る機会がすごく増えたんです。そしたらなんか、私はちゃんと乃木坂というグループのために、力になれているのかなとかって考えてしまうようになって】「B.L.T. 2019年5月号」

山下は「迷走」という言葉を使っているし、久保の発言の意図しているところも「迷走」に近いだろう。

他のメンバーのことを「考えていない」と言いたいわけでは決してないが、久保と山下は、考えすぎる人だ。そして、自分を認める力が弱い。外から見ている限りにおいても、久保と山下は「努力の人」に見えるだろう。少なくとも、僕はそう捉えている。

【―自分へのご褒美を買ったりもしますか?
久保 それについてすごく疑問に思うのが、頑張ったの基準がわからないから、自分にご褒美をあげられないんですよ
―今日は頑張ったなぁって思うことはない?
久保 ないです。何をやれば”私は頑張ったぞ!”って思えるんだろう?って】「BOMB 2019年10月号」

【山下 ファンの方が握手会に送ってくださったお花がたくさんあるんですけど、ひとつずつ写真を撮って、「ありがとう」ってブログに書いて感謝の気持ちを伝えました(中略)
私、バラエティ番組とかで爪痕を残すようなことをしたり、メディアに出て「引っかかりがある子だな」って気になるようなことを言えるタイプじゃなくて。自分の中では「ちゃんとやろう!」と思っていても、今まであまり結果を残せたことがないんですよね。だから、何かでパッって一気にブレイクすることはたぶんないと思うんです。でも、さっき言ったブログのお花とかは時間をかければできるじゃないですか。握手を大切にするのもそうだし、ファンの方に対しての姿勢は、才能とは関係ないと思うんです。才能がなくてもできることだし、ファンの方がよろこんでくれるのは素直にうれしいなって思います】「BUBKA 2019年1月号」

確かに、アイドルとして活動している年数が違うから、1・2期生を見て「天才」「才能のかたまり」と感じてしまうかもしれないし、それと比較して、「自分は出来ない」「才能がない」と感じてしまうのかもしれない。だから彼女たちは、いつも自信がない。

【―誰かにほめてもらっても、自信にはつながっていかないんですか?
久保 そうなんですよね、そこが不思議ですよね…。でも、昔はほめてもらっても、『そんな、そんな』ってとにかく否定していたんですよ。それが3期生として乃木坂に加入してから2年半がたってようやく、『ありがとうございます』って言えるようになったんです。そのもう1つ上の段階、自信に変えるっていう力が今はまだなくて。全然、自分の活動に対して何事も満足していないからなんでしょうね。】「B.L.T. 2019年5月号」

【―今、自分に自信ってありますか?
山下 自信はないですけど、度胸はつきました
与田 分かる!
山下 自信がなかったとしても、お仕事はやらなくちゃいけないじゃないですか。苦手なことにも、できないことにも直面しながらここまで来たから。なので、自信はついていないですけど、度胸だけはあります。】「B.L.T. 2019年11月」

自分が、アイドルに向いていない、という感覚も共通している。

【―アイドル力のなさって、どういうことですか?
久保 なんか儚い感じとか、繊細な感じとか…私は体格的にも大きいし、女性らしさみたいなものを醸し出すのが得意じゃないんだなと、ずっと思っていたんです。しかも「私はそれができないから良いんだ」と割り切っていた。例えばダンスにしても、私は体が硬いことを『乃木坂工事中』の中で「硬いからできないんです」と自分で言うことによって良しとしていたんです。
―キャラにするというか。
久保 だけどそれって良くないなと思った。できないことをそのままにしたくないし、それまでも自分をすごく恨むようになりました。】「BUBKA 2019年7月号」

【―山下さんの考える“エース”は、山下さんのキャラとは違う?
山下 私、自分にないものが全部アイドルとしての理想なんですよ。儚くて、線が綺麗で、一瞬一瞬が美しくて。そういうのが備わっている人が、私にとって理想のエースです。あと、あまり抱え込みすぎない人がなってほしいなと思います。真ん中に立つと、たとえみんなが認めていたとしても、その曲のことを全部背負うわけじゃないですか。私がもしそこになったとしたら、毎日、目の下にクマを作るんじゃないかな。
高山 本当に?
山下 考えすぎちゃうと思うんですよ。だから、ちゃんとグループのことを思って、そのために活動はするけど、あんまり背負っているのを感じすぎない人がいいなって思います】「BUBKA 2019年1月号」

しかしそれでも、彼女たちがアイドルというステージで努力を続けるのは、乃木坂46や先輩に対する想いがあるからだ。

【久保 乃木坂に対する思いが、あふれ出ているんですよ。ライブをしながら、「どうしよう、私、今後、これ以上に、恩がえしをしたいとか、大好きだとか、最上級の感情が出ることがあるのかな」と何度も思うくらい、乃木坂に対する思いが強いな、と自分でも分かるんです】「AKB新聞 2017年8月号」

【山下 先輩方が黙って努力する姿に、私ははかなさを感じるんです。それが「らしさ」を作っているんじゃないかなと思っていて。乃木坂46はそのはかなさが他のアイドルグループよりも強いんじゃないかなと、今メンバーとして強く感じています】「日経エンタテインメント 2017年10月号」

そんな久保は、「自分がそんなことをしていいのか」という葛藤を抱えながら、3・4期生のみで行われたライブにおいて、自発的に、メンバーを鼓舞する役を買って出た。

【久保 このライブ(※3・4期生ライブ)の開催を聞いて、3期生と4期生だけでステージに立つことには何か意味があると思いました。どんな意味かというと、3期生が先輩としての自覚を持つということです。それが私たち3期生の課題なんです。私たちの代って、2期生さんからかなり遅れて入ったので、1期生さんと2期生さんを完全に先輩として見ているわけです。だから、ライブでもテレビ出演でも、すべての面においていつも頼ってばかりでした。そんな甘えている現状が続いていてはいけないということを突きつけられたんじゃないか。私はそう感じました。そのためには経験えを積まなければいけない。私たちが先輩として4期生をしっかりと引っ張る。そして、乃木坂46のメンバーであるという自覚を手に入れる。今回の代々木ライブはそういう場所なんです。
-リハーサルがスタートしてしばらくたったある日、3期生の代表として久保が口を開いた。
久保 誰かが言わなきゃいけないと思っていました。そうじゃないと、ライブが成功しないかもしれません。どうせ言うなら早いほうがいいと思ったので、このライブが開催される意味を、私なりの解釈でみんなに話しました。『このライブを成功させるためには今までと同じ心持ちじゃいけないんだ。今までだったみんな本機で取り組んできたと思う。私がみんなより、できているわけじゃない。でも、みんなもっとできると思う。そのためにはリハから全力で踊ろう。全力で歌おうよ。私たちも頑張るから。ついてきてほしい』って】「乃木坂46×週刊プレイボーイ2019」

また、山下は、乃木坂46全体に対して、また違った捉え方をしている。

【山下 ただ、よく言われる「世代交代」という言葉に対しては、ちょっと違和感があります。個人的に感じるのは、乃木坂46って“一本の直線”なんです。期の間に大きな隔たりがなくて、全員が「乃木坂46らしさ」にこだわりを持って、一本の真っすぐな線を、みんなでつなげていっているような感覚なんですね。だから、「3期生が中心になって新しい時代を作っていく」となると、それは違うかなって。これからも一本の直線を崩さないように、私たちがしっかりと「乃木坂46らしさ」を次へつないでいくことが大事だと思っています】「日経エンタテインメント!乃木坂46スペシャル2019」

とはいえ、どちらも、乃木坂46に対して本気であることは確かだ。他のメンバーも、もちろん本気だろう。しかし、「本気感が見える」という意味で、ふたりはずば抜けている。それは、ある種の不器用さでもある。本気感を出さずに、スマートに努力することも出来る。それが個性になっているメンバーもいる。しかし、齋藤飛鳥が山下に対して言うように、【やまっきーは、「0か100かしかない女」というか。中途半端な加減はしないから、うらやましいと思うし、ある種の正解だと思う。(中略)アイドルが好きな人にとって、やまっきーみたいな子って、見ていて本当に楽しいんだと思う。】「乃木坂46新聞 「真夏の全国ツアー2019」全公演リポート」というのも、アイドルとしてのある種の正解だ。

また、その本気感は、お互いの存在から刺激されている部分も大きい。

【久保 山下はすごいんですよ。もちろん3期生みんな努力しているんですけど、私が見た中で一番頑張っているのは山下です。山下を見て私も頑張ろうって思ったので。必ず裏とかでずっと練習しているし、ノートとかに取ってるし、しっかり準備していて、いい意味で余裕があるから、自分の中での整理がついていて、ファンの方ともステージでコミュニケーションが取れるんですよ。陰で努力しているからこうしてファンの方の心をがしっとつかめるんだと思いました】「AKB新聞 2017年8月号」

【山下 久保ちゃんも含めて、自分には越えられない存在だし…。
―なぜそう思うんですか?
山下 そばで見ていると、アイドル性とか輝き方とか、やっぱり違うなにかを持っているのをすごく感じるので。最初の頃は、私はこの3人のうしろをずっとついていくんだろうなって思っていました。でも、それじゃあファンの方に申し訳ないし、最初から諦めていたら何もできないから、報われないかもしれないけどそこを乗り越えようとする姿勢は絶対に忘れないようにしよう、と思いました】「BRODY 2017年10月号」

【―個人的には、久保さんと山下さんの切磋琢磨する関係が乃木坂をいい方向に導いてくれると期待しています。
久保 山下には隣にいてほしいと思ってしまいますね。そのためには私が山下に追い付かなきゃいけないですよね。山下はすごくて、私はいつも見上げているから。そんな状態が自分の負担にならなくなったことが、私の中の大きな変化かもしれません。】「EX大衆 2019年9月号」

【山下 久保ちゃんみたいに歌もダンスも演技もうまくなりたいという思いで、『プリンシパル』は熱意と努力だけで頑張っていたところがあったかもしれません。逆に久保ちゃんがここまでじゃなかったら、自分もこんなに必死になってなかったかもしれないです。】「BRODY 2018年10月号」

ふたりは、お互いの存在がお互いを高め合っている。以前久保は、【たぶん、やましーとは前世で会ってるんですよ】【…こんな出逢い、もう一生ないかもしれない!】「BUBKA 2017年8月号」という話をしていた。確かに、そうかもしれない。それぞれの雑誌でのインタビューを読んでいると、乃木坂46に入る前は、積極的に行動できるわけでもなく、何かしていたわけでもない高校生だった、というようなことを言っていたように思う。もちろん、乃木坂46という場そのものがふたりを変えた、ということもあるだろうが、乃木坂46でお互いに出会ったことが、彼女たちを大きく変化させたこともまた、間違いないだろう。

最後に。久保のこんな言葉で、この記事を終えようと思う。

【―なんでこんな夢を見てしまったんだろうと考えました?
久保 すごい考えました。頭が痛くなるくらい毎日いろんなことを考えて。「なんで大好きな地元を離れようと思ったんだろう」とか「なんで上京する時に友達の連絡先を全部消してしまったんだろう」とか、どんどん後悔が出てきて。正直、「乃木坂にも地元にも戻れない」と自分の居場所がなくなって孤独を感じる時もありました。その時期に3期生が個人で活躍することが増えて、「もうダメだ」と気持ちが沈んでいたんです。
ただ、「乃木坂に入るんじゃなかった」という後悔はなかったです。乃木坂に入って大好きな人がどんどん増えて、愛であふれたメンバーに囲まれた生活が大好きなので。乃木坂に入ってよかったという気持ちはずっと持ってます。】「EX大衆 2019年9月号」

【―改めて、この3年間はどんな道のりでした?
久保 アイドルとしては順調じゃなかったと思います(笑)。ファンのみなさんを心配させたし、まわりの方たちにも迷惑もかけてしまった。ただ、ひとりの人間・久保史緒里としては、すごく正しい道だったと思います。これからも道は続いていきたいです。18歳の1年は基礎を固めてよろけても大丈夫な道にする期間にしたいと思ってます】「EX大衆 2019年9月号」

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