【映画】「すばらしき映画音楽たち」感想・レビュー・解説

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『映画音楽のルールは一つだけだ。“ルールはない”』

映画における音楽というのは、無声映画の時代からあったという。劇場にオルガンが設置され、譜面通り、あるいはその場の即興で音楽をつけた。音楽が必要だった理由の一つは、映写機の音をごまかすためだったようだが、次第に映画人たちは、音楽の力を認識するようになる。

『作曲家は語り部だ』

映画音楽にとって大きな革命は何度もあった。その最初が「キングコング」だ。この映画では、映画音楽のオーケストラを取り入れた。革命的なことだった。「キングコング」は、音楽なしでは「作り物感」が強い。実際、作り物だからだ。しかしそこに音楽が加わると、途端に迫力が生まれる。音楽の力を、初めて見せつけた映画だ。

『音楽は映画の魂だ』

その後、「欲望という名の電車」で映画音楽にジャズが組み込まれ、また「007」では映画音楽にバンドという選択肢が組み込まれるようになった。

『間違ったやり方なんてない。正しくなるまで、試し続けるだけだ』

そんな風にして、映画音楽には新しい風がどんどん吹き込まれていった。1960年代半ばから1970年代初頭は、まさに映画音楽の黄金時代だったそうだ。ヒッチコックの「めまい」は、映画音楽の手本だと言われている。またこの映画の中で、「サイコ」のシャワーシーンを音楽なしで流す場面があった。確かに、音楽なしであのシーンを見ても、あまり怖くない。ある人物はシャワーシーンの音楽について、『あんな音楽、映画音楽じゃなきゃ耳障りなだけだ』と、逆説的な形で音楽の効果を絶賛している。

『音楽は、観客に望みどおりの感情を与える潤滑剤だ』

もちろん音楽にはそういう効果もあるが、別の役割もある。この映画には女性科学者が登場する。彼女は、音楽が脳にどんな影響を与えるのかについて語るが、その話の中で、映画を観ている観客の視線について語られる。大勢の観客がいるのだから、ある場面について観客がそれぞれ別々の箇所を観ている、と考えるのが自然だ。人物だったり風景だったり、動くものだったり止まっているものだったり、様々な観客は、様々な場所を観ているはずだ、と。

しかし実際には、それと異なる研究結果が出ているのだという。ある場面における観客の視点は、かなり高い確率で同じになっているという。そしてその効果を生み出すのが音楽なのだ。音楽は、場面場面での観客の視線を操る役割も果たしているのだ。

映画音楽には革命児はたくさんいる。しかしその中でも、ウィリアムズは「神の領域」にいると表される。

『「JAWS」は、音楽がなければ、何が何だか分からない』

ダーダン、ダーダン、というあの印象的なフレーズを生み出したのがウィリアムズだ。当時としては、この音楽は無謀な実験だったというが、大成功を収めた。

その後もウィリアムズは、「スター・ウォーズ」「スーパーマン」「インディー・ジョーンズ」「ET」「ジュラシック・パーク」など、誰もが聴いた瞬間に映画を思い出せるほど有名な映画音楽を次々に生み出してきた。

『自分で鳥肌が立つような曲じゃなきゃダメだ』

その後も、映画音楽の世界は次々と革新を受け入れていく。そうやって現れたのがハンス・デューだ。彼も、「パイレーツ・オブ・カリビアン」「グラディエーター」「インセプション」など、印象的な映画音楽を生み出している。しかし、そんなトップランナーでも、映画音楽と向き合う際には不安を覚えるという。

『恐怖で妄想にかられることもあるし、死ぬほど悩むこともあるけど、でも辞める気はないよ』

その後、「ソーシャルネットワーク」の映画音楽がアカデミー賞を受賞したのを皮切りに、映画音楽は電子音楽家にも門戸が開かれることになった。彼らは映画音楽に「美しい混沌」をもたらし、それが革命となっていく。

『映画音楽は20-21世紀が生んだ偉大な芸術だ』

オーケストラを日常的に使っているのは、今や映画音楽の世界だけだ。オーケストラがなくなったら、文化に多大な影響が出る。映画音楽が支えているのは、もはや映画の世界だけではないのである。

非常に面白い映画だった。映画監督・作曲家・ミュージシャン・プロデューサー・映画史研究家・科学者など様々な人物が登場し、映画音楽について語っていく。実際に、その音楽が使われている映画のシーンも挿入され、それらの効果や、どのように生み出されたのかという話が、多方面から描かれていく。

僕個人としては、音楽の少ない映画の方が好みだ。映画音楽が、特定の感情を強要する風に感じてしまうからだろう。とはいえ、この映画を見ることで、映画音楽に興味を持つことが出来るようになった。感情を操作しているというのはもちろん予想通りだったけど、視線までコントロールしようとしているというのは驚きだった。

また、勝手なイメージでは、これだけ電子音楽が広まっているのだから、電子的な音で作ることが多いのかと思っていたのだけど、そうではないようだった。特に、作曲家たちがありとあらゆる楽器を集めているというのは興味深かった。子供向けのアニメの音楽制作のために子どもようのおもちゃのピアノを買ったという作曲家もいたし、見たことも聞いたこともないような楽器を奏でる作曲家たちも様々に登場した。「猿の惑星」で業界に衝撃を与えた作曲家は、金属のボウルをゴムボールで叩いて音を作ったという。それがその映画、そのシーンにハマっていさえすれば、どんな音でもどんな曲でも構わない。映画音楽の自由度の高さが、あらゆる才能を吸い寄せ、傑作を生み出す環境となっているのだろうと感じた。

しかし、ウィリアムズは凄いなと思った。「スター・ウォーズ」「スーパーマン」「インディー・ジョーンズ」「ET」「ジュラシック・パーク」の音楽なんか、どれも分かる。僕がこの中で、実際にちゃんと映画を見たことがあるのは、もしかしたら「インディー・ジョーンズ」をテレビで見たことがあるかも、ぐらいだと思う。それなのに、全部分かる。その曲を聞けば、なんの映画かパッと思い浮かぶ。この力は本当に凄いなと感じました。

『音楽は実体のない唯一の芸術だ』

確かにそうかもしれない。音楽は、見ることも触れることも出来ない。そしてそれが、僕らの心を揺さぶるのだ。その力を改めて実感させられて映画だった。

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