【乃木坂46】「誰かのため」の人・若月佑美

若月佑美は、11月いっぱいで乃木坂46を卒業する。卒業する前に、若月佑美の記事を書きたい、と思ったのだが、ちょっと難しいなぁ、とずっと感じてもいた。

何故なら、インタビューなどで彼女は、自分のことをあまり語らないからだ。

ブログやモバメなどでは、自分について色々と書いているのかもしれないが、僕はそちらは読んでいないので分からない。あくまでも雑誌のインタビュー、しかも僕の目に留まったものからの判断だが、若月佑美は、他人のことは非常によく観察しているし、それを的確な言葉で表現するのだけど、自分について多く語ることはない。もちろんそれは、インタビューの方向性などもあるだろうし、「若月佑美の観察眼を紹介することこそが若月佑美らしさを伝えることになる」という意図もあるのだろうとは思っている。

例えば、これまで彼女がしてきたメンバー評の一部を引用してみたいと思う。

【(秋元真夏についての話)普段は本当に真面目で、理想をすごく高く持ってるんですよ。なので、自分をそこまで持っていけなかったときには自分のことを責めるし、全部自分で背負ってしまうんです。周りが気にしてないようなことまで気にして、ひとりで反省してたりするし。あと、これを言ったら営業妨害になるかもしれないけど…本当が自分のことをカワイイと思ってないんですよ。そういうネガティブな面を表に出さないように努力してる、ガチプロですね(笑)】「BRODY 2016年6月号」

【(生駒里奈は)いろんなスイッチがあって、そのスイッチを押すと、どこかの電気がつくような感じというか。かっこいいモード、可愛いモード、純粋モードとかいろいろあるんですけど、そういう自分のなかのスイッチを自在に切り替えることができるんですよ。ただ、いろんなスイッチを持っているけど、全部が落ちちゃう日もある。そういうときはアニメをずっと見ているとか、好きなものに没頭する昔に「おいちゃんタイム」が始まるんです】「BRODY 2017年12月号」

【(堀未央奈は)「このタイミングで求められている自分はこれだな」というのを、わからないようにちゃんとやっているタイプですね。
―周囲にさとられないように、っていうことですか?
不思議をめちゃくちゃ纏っているから、そこに隠れているけど、中身はキッチリしていますよね。服装とかもちゃんと寄せにいきますし。本当と嘘を一緒にして、本当に見せるタイプというか。たとえば、真夏のことをディスったりして、未央奈的にはそれは嘘なんですけど、本気でディスっているように見えるときがある、というか。】「BRODY 2017年12月号」

【(星野みなみは)例えば、手の使い方が女子ですよね。ペットボトルの持ち方もガシッと掴むんじゃなくて、指先で持つんですよ】「BRODY 2018年4月号」

「乃木坂46」というグループも、非常に強く客観視している。

【―乃木坂が大きくなれた理由を考えてますか?
ひとつは、隙間をうまく埋められたこと。(中略)
―乃木坂が46結成時は、特にアイドル戦国時代でしたものね。
すごかったですよね。そんな中で、AKBさんが“動”を表しているとすると、私たちは“静”を表しているなと。(中略)それもスタッフさんに強く指導されたわけではなく、メンバーが作っていったものがそうなっていっただけなんです。(中略)
―そのとおりだと思います。
もうひとつは、不思議な安心感というか。乃木坂のメンバーには闘争心というものを表に出さない人が多くて。メンバー自体もすごく仲が良くて、上下関係もないし、それに関して別になんとも思っていない。そのふわっとした、落ち着いた雰囲気がライブでもちょいちょい見え隠れするんですよ】「BUBKA 2017年10月号」

こんな風にして若月佑美は、常に自分以外の誰か/何かを見ている。元乃木坂46のメンバーである橋本奈々未も、その鋭い観察眼でメンバーやグループを捉えていたが、若月佑美も引けを取らないレベルで物事を見ていると感じる。

そこには、こんな理由があるようだ。

【―そもそも人間観察が好きだったんですか?
好きでした。もともと自分のことが大っ嫌いで、自分の存在がコンプレックスだったので、人のいいところを見つけまくって自分のものにしたい、って思ってたんですよ。「あの子のここがいいなぁ」「あれがすごいなぁ」っていうのがあれば、私も真似してみよう、って。そうすれば自分自身も変われるんじゃないかと思って、中学生の頃から人のことをよく見るようになりました】「BRODY 2017年12月号」

乃木坂46には、西野七瀬や齋藤飛鳥のような、ネガティブさを隠しきれない強い個性を持つメンバーが多くいるためにあまり印象にはなかったが、若月佑美もまたネガティブさを引きずりながら生きてきたようだ。嫌いな自分をどうにか変えていくために観察眼を磨く、というのは、ネガティブでありながら積極的な行動をしようとしてこなかったように見える西野七瀬や齋藤飛鳥とはまた違ったアプローチだ。西野七瀬や齋藤飛鳥が状況に身を任せるタイプだとしたら、若月佑美は自分で状況を変化させようとする人である。

若月佑美には「努力の人」というイメージがある。乃木坂46には、生田絵梨花という、「努力の天才」と呼ぶべきメンバーがいるので、努力という点で若月佑美が圧倒的に目立つわけでもないが、誰もが努力し続けなければ生き残れないアイドルという過酷な環境の中で、人一倍努力し続けている人であるように見える。

あるTV番組で彼女は占い師から、「あなたは馬の横について同じスピードで走ろうとする人」と言われたという。


【他のみんなは馬に乗るから速いし楽。周囲に頼ればもっとスムーズにことが運ぶのに、自分のプライドが邪魔して抱え込んでしまうそうです。当たっていると思いました。】「日経エンタテインメント!アイドルSpecial2018春」】

こういう発言は、彼女が努力下手であるように受け取られるかもしれない。努力というのは、ただがむしゃらにやればいいわけではなくて、的確にやっていく必要がある。そういうことが、不器用で出来ないのか、とも感じられるが、別のインタビューでこんな風に語っている。

【最近ファンになった方は知らないかもしれないし、ずっと応援してくださる方は思い出したくないかもしれないけど、あの経験があったから今の自分があるのは間違いない。遅れをとったことで、みんなが1頑張るところを、私は10頑張らなきゃいけないんだという意識は今も変わっていません】「アイドルspecial2016」


僕は初期から乃木坂46が好きだったわけではないので、彼女のスキャンダルについては直接的には知らない。乃木坂46のドキュメンタリー映画「悲しみの忘れ方」の中で触れられていて知った程度の知識しかない。だからそのスキャンダルがグループにどの程度の波紋を投げかけ、メンバーにどれくらい苦労を掛けたのか知る由もないが、彼女の自覚としては、「迷惑を掛けた以上頼れない」という意識もあったのだろう。【誰かの話を聞いて、それを肯定したりアドバイスするのは好きなんですが、自分の話を共感してもらうのは申し訳ないと感じてしまうんです。】「日経エンタテインメント!アイドルSpecial2018春」という発言も、同じ理由かもしれない。もちろん、「迷惑を掛けた以上、返したい」という気持ちもあったはずだ。そういう気持ちが、彼女の「努力の原動力」になっているのだろうし、乃木坂46というグループや他のメンバーを客観視する力を積極的に生かしていこうという発想になるのだろうと思う。

もちろん若月佑美も、加入当初は自分自身のために努力していた。

【それこそ、1期生でみんな同じラインからのスタートだったので、ここでトップギアで行ったら何かを変えられるかもしれない、もしかしたら自分も上へいけるかもしれない、そう思って必死に頑張っていたんですけど】「BRODY 2018年6月号」

今でこそ、秋元真夏に【こっちが心配しちゃうくらいに自己犠牲をする人なんです】「BUBKA 2018年12月号」と言われる立ち位置であるが、初めは、アイドルとして自分がのし上がっていきたいという気持ちがあった。当然だろう。まだ乃木坂46が何者でもない状態で、最初の努力次第で未来を大きく変えられるかもしれない、という場所にいられたとすれば、誰もがそう感じることだろう。

しかし、その気持ちは長くは続かない。

【1期生は天才たちの集まりなんです。そもそも、白石麻衣に顔面で勝とうなんて無理なので(笑)。まわりを見るとそういう天才ばかりで苦しいな、と思っていました。】「BRODY 2018年6月号」

「アイドル性」というものが何によって生み出されるのかは色んな意見があるだろうが、そこに、努力では手に入れられない天性のものが含まれる、という考えに賛同する人は多いだろう。ダンスや歌が下手でも、喋りがうまくなくても、「圧倒的な容姿」や「アイドルになるに至った物語」や「ミスをしても許される愛嬌」みたいなものが「アイドル性」として高く評価される。そういう世界にあって、「努力」が関われる余地は決して多くはない。

そういう経験を経ることで、彼女は少しずつ変わっていったのだと思う。自分に求められていることを理解し、その役割を埋めるような意識を持つようになったのだ。

【ただグループの中では、誰が見ても「男っぽくて頼られる人」がいた方が分かりやすくていいのかなって思うんです。最近になって浸透してきたツッコミ役も、そういう役割のメンバーがいたほうがよりライブを楽しむことができるのかなって。私自身にアイドルらしいかわいさはなくてもいいのかなって思うようになりました】「アイドルspecial2015」

こういう客観性は、他人を観察し続けたことによって培われたものだろう。乃木坂46のメンバーとして存在する自分が、どう振る舞うことがベストなのかを、自分という枠組みから大きくはみ出して捉える方向へシフトしたことは、その後の彼女の活躍に大きな影響を与えることになっただろう。

秋元真夏がこんな風に言っている。

【(若月佑美は)人のためなら自分が納得いかないことだったり、自分はこうしたいっていうのがあっても、「じゃあこっちのパターンでやろう」って考えをできる人で。それって芸能人に珍しいタイプだと思うんですよ。芸能人って「自分が目立ちたい」とか「主役になりたい」っていう人が多いと思うんですけど、若は誰よりも人のことを考えるし、人に寄り添ってくれるし、もう「神様なんじゃないか?」って思うくらいの人格者なんですよ】「BUBKA 2018年12月号」

この発言が載っている「BUBKA 2018年12月号」では、若月佑美の卒業に合わせて、若月佑美・秋元真夏・桜井玲香・中田花奈の、いわゆる「女子校カルテット」のメンバーが集まった。彼女の卒業については、「女子校カルテット」の面々も本当に知らされておらず、他のメンバーと同じ発表だったという。三人と別れてしまうことに対して【絶望的にさみしい】と語る若月佑美は、だからこそ、歌番組が集中する直前の11月に卒業すると決めたそうです。会う機会が増えると、「もうちょっとグループにいたいな…」という気持ちが芽生えてしまうかもしれないから、と。

そんな彼女に対して、「女子校カルテット」の三人は、「最後ぐらい!」という反応を繰り返し見せる。常に周りのことばかり考えすぎているんだから、最後ぐらい自分のワガママを通したっていいじゃん、という反応だ。その一つを引用してみる。

【秋元 そんなに自分だけ重い荷物を持たなくてもいいのに。だって最後だよ。もう最後なんだよ?
桜井 そう!なんで最後の最後までそんな感じなの?
若月 いや、だって自分がそうだから…かもしれない。もし真夏が卒業しますっていうことを私が知ってたら、「真ん中行って、真ん中」みたいに言うじゃん。
秋元 やりそう。それはすごいわかる。
若月 「最後だから、真ん中おいでよ」って。それをまわりに思わせるのは嫌だなと思って。
秋元 したよ。してこうよ。】「BUBKA 2018年12月号」

「乃木坂46の若月佑美」として、ずっと全体のバランスを調整するように振る舞い続けてきた彼女が、「乃木坂46」という枠組みを外れた時どうなるのか。「当たり前のようにそう振る舞ってしまう」という存在が無くなった時、「若月佑美自身」が強く現れ出るのか。グループから離れる残念さはもちろんあるが、個人的には、彼女の卒業に対しては、そういう部分に関心がある。

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