【映画】「夜間もやってる保育園」感想・レビュー・解説

僕は結婚もしてないし子どもももちろんいないし、何らかの形で子育てに携わったこともないし、子どもはそもそも好きじゃないし、そんなわけで全然子育てについて語るのに相応しい人間ではない。ないんだけど、自分なりに世間の情報を見聞きしたり、時々子育てをしている人の話を聞いたりしながら考えることはある。

子育てにおける日本の困難さの根本原因は、子育てを取り巻く空気にある、と僕は感じている。

『生まれたばっかりですぐに子どもを預けてしまうのは、罪悪感がありました』

『やっぱり言われましたよ。子どもの一緒にいる時間が少なくなるのは可哀想だって、結構周りの人に』

映画の中で、夜間保育園に子どもを預けている親がそんな風に語る場面がちらほらある。実際に、僕が子育てをしている母親から話を聞いた時も、そんなようなことを言っていた。

また、ネットの記事なのでどこまでホントか分からないが、日本が保育園などに力を入れたがらないのは、政治家(高齢の男性)が、子育ては家でするものだ、という幻想を捨てられないからだ、と主張している人もいた。

こういう空気が、僕は日本での子育てを困難にしているのだと感じる。

僕は個人的には、保育園に子どもを預けることは良いことだと思っている。それは、共働きだろうがそうじゃなかろうが、夜働いていようがそうでなかろうが関係なしに、保育園という仕組みがそもそも子育てに必要ではないか、という立場だ。

何故なら、一昔前と違って、子どもが他者と接する機会が減ってきていると思うからだ。

昔は、兄弟が多かったり、三世代同居だったり、あるいは近所のコミュニティがちゃんとあったりで、家で子育てをしていても、両親以外の他者と自然と関わる機会があったはずだ、と僕は思っている(データがあるわけじゃないから、あくまでもイメージだけど)。そういう時代であれば、「他者と関わる場としての保育園」は不要だろう。

しかし現代は状況が大きく変わっている。核家族が進み、子どもも一人という家庭が多いのではないか。近所付き合いも濃密ではなくなり、それ故に、子どもが日常的に接するのが親だけ、という状況が生まれているのだと思っている。

そしてその状況は、子どもにとってとても悪いものだと思っている。確かに、母親と接する時間は大事だと思う。しかし、母親以外の他者と関わる時間だって同じくらい大事だ、と僕は思う。社会状況の変化によって、家庭での子育てのみでは他者との関わりが少なくなってしまった現代ならば、「他者と関わる場としての保育園」は非常に必要性が高いのではないか、と僕は考えている。

実際映画の中でも、そういう趣旨の発言をする人がいた。

『(農家なので)周りに同世代の子どもがなかなかいない。いれば保育園に預ける必要はないかなって思うんですけど、やっぱり他の子どもと触れ合う時間も大事だと思うので』

『遅くまで子どもを預けるなんて可哀想、ってやっぱり言われましたよ。でも、子どもの側から見たら、ここが生活の一部だし、友達もいるし、いつも楽しそうにしてる。卒園してからも、ここで働きたいなんて言うぐらいですから』

そうだろうなぁ、と思う。もちろん、保育園の環境にも依るだろうし、この映画で扱われている保育園は、全体の中でも恐らく「良い部類」の保育園だろうから、単純に捉えることは出来ないにせよ、やはり映画の中で映っていた子どもたちはみんな楽しそうだったし(そういう場面ばっかり切り取っているのだ、という可能性はあるにせよ)、同年代の子たちと関わっている姿は、家庭だけの子育てではなかなか得られにくいだろう、とも感じた。

空気、という意味で言えば、もう一つ感じることがある。それを的確に表現してくれていたのが、映画に登場した内閣官房統括官の方だ。この方は、自らの出身である地方の村での子育てにおける状況を語った後で、こんな風に言った。

『子どもを育てるということへの敬意が薄くなっているように感じることがあります』

それは、ニュースなんかを見ていても感じることだ。電車にベビーカーで来るなとか、幼稚園を近所に作るな、みたいな話が結構出てくる。そりゃあ、実際に迷惑を被っている人からすれば大変な状況ではあるんだろうけど、でもそういうのって、子どもを育てることに対する敬意がちゃんとあれば、まあしょうがないかという形で収まる話なんじゃないか、という気もします。子どもを育てることへの敬意が、一昔前はあったのかどうか僕には分からないけど(内閣官房統括官の方はあくまでも、自分の出身の村の昔の状況と、現在の日本の大雑把な状況を比較している)、現代ではそれが薄い、ということは間違いないだろうと思う。

そういう世の中にあって、保育園という存在は益々重要になってくるだろう。映画の中でも、「この保育園がなかったら、二人目は考えられなかった」と語る親もいた。子どもは欲しいけど、育てられるか分からないからという理由で躊躇してしまう人だっているだろう。そうなればなるほど、色んなことが苦しくなってくるだろうなぁ、と思う。

現在(確かデータは2016年のものと表記されてた気がする)、保育園(これが無認可も含むのか忘れてしまった)は2万ヶ所ぐらいあるのに対して、認可夜間保育園は80ヶ所しかないという。一方で、無認可のいわゆる「ベビーホテル」と呼ばれるところは全国で1749ヶ所あるという。


この映画では、そんなベビーホテルも取り上げられていた。必要性があるからこそ、1749ヶ所も存在するのだけど、認可がないから補助金はない。ベビーホテルの方の話だと、認可保育園だとキャバクラで働いている人は落とされてしまうという。そういう意味でも、ベビーホテルのような存在は必要とされている。

ニュースを見ていると、認可保育園でも問題があったりと、保育園を巡る様々な問題が取り上げられる。あるいは先日ネットで、「実は認可保育園に落ちたい母親が潜在的に多くいる」という記事を見かけて驚いたことがある。その記事によれば、認可保育園に落ちたという証明があれば、育休が伸ばせたりするらしい。だから、認可保育園に落ちたという証明をもらうために、敢えて入るつもりのない認可保育園に応募する親もいるらしい。そんなわけで、子育てを巡る問題や解決は、単純なものではなく、社会全体の色んな部分をひっくるめて考えなければならないことなんだと思うのだけど、こういう映画を見ると、そういう問題に目が向くようになって良いと思う。


この映画では、「エイビイシイ保育園(新宿)」「玉の子夜間保育園(沖縄)」「すいせい保育所(北海道)」「エンジェル児童療育保育園(新潟)」などが取り上げられる。それぞれが問題意識や使命感を持って夜間保育を担っていて、そこで働く人や、そこに預けている人の話を積み上げていきながら、現代の子育ての問題を浮き彫りにしようとする。

使命感ややりがいは大事だし、そういう人は素晴らしいと思う。けど、使命感ややりがいなど高いハードルを越えないと出来ないことは、なかなか広がっていかない。夜間保育も含め、子育てというものが、社会全体の努力によって、今よりももう少しハードルの低いものになればいいと、映画を見ながら感じた。

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