見出し画像

ロシア映画「LETO」レビュー

BUNKER TOKYOのRyuseiです。今回は映画評論ということで、昨年公開された「Leto」というロシア映画を紹介させていただきます。

舞台は80年代前半、ペレストロイカ目前のレニングラード(現在のサンクトペテルブルク)。共産主義下で資本主義と対立していたソ連時代。西側(欧米)の文化が禁忌とされていた頃の話です。

ソ連統治下でロックミュージックは、仮想敵国の思想流入を招くため好ましくない存在と政府にみなされ、禁止されていました。ですのでロックは個人のアパートの半地下的なクラブなど、いわゆるアンダーグラウンドなシーンで政府の監視から隠れながら成長していきました。

その最前線でいち早く人気を博していたバンド、Зоопарк(Zoopark)のリーダーであるマイクナウメンコの元にある日、ロックスターを夢見る青年ヴィクトルツォイが訪れます。彼に才能を見出したマイクは、ヴィクトルと共に音楽活動を始めていき……というのがLetoのストーリー。ヴィクトルは後にКино(Kino)というバンドで一世を風靡した伝説的な存在で、この映画はКиноがブレイクするまでの道のりを描いています。

画像1

映画は全編を通してモノクロの画面で展開されていきますが、たびたび入る音楽のシーンには少しのアニメーションや色が入ります。この遊び心がたまらない上に、映像は全編通してまるでMVのよう。再録音されたTalking HeadsやT.Rex、Iggie Popの曲も最高でした。曲によっては歌うのが主演の人物たちだったり、街行く人々だったりと、まるでミュージカル映画を見ているようで心を踊らされます。個人的には序盤のPsycho Killerと中盤のThe Passengerがツボでした。ラストシーンに流れるКиноのЛетоも、話の続きが欲しくなるようなカッコよさで後を引かれます。。自由を求め楽器を鳴らした男たちの姿は輝かしく、心底痺れました。Letoはロシア、ソ連、ロックミュージック、歴史、映画のすべての要素において非常にハイクオリティで、間違いなく必見の一作だと思います。

ヴィクトルツォイは1990年、28歳という若さにして不慮の事故でこの世を去ってしまいましたが、現在のロシアでも「ロックの神様」と呼ばれるような存在です。モスクワには彼を讃える「ツォイの壁」という場所もあり、今でもそこを訪れるファンは尽きません。

また、ツォイは俳優業もやっており、彼の出演した「Acca(Assa)」という映画はソ連崩壊の一因となった映画と言われるほどの影響力(※)。AccaのラストシーンがКиноの演奏なのですが、その時の曲Мы ждём переменにある「僕たちは変化を待っている」というフレーズは人々の心を掴み、若者たちの間で非公式の国家と呼ばれるほど絶大な人気を誇りました。彼の音楽に影響を受けた後進のバンドも数知れず、ファッション業界でも19年の春夏に字ジョージア出身のデザイナー、デムナ・ヴァザリア氏が手がけるブランドVetementsからヴィクトルツォイをフィーチャーしたアイテムがリリースされるなど、今でも彼は世界中の人々の心の中で生き続けています。

画像2

Letoは去年11月から配信が始まっており、劇中歌も各種サービスで聴くことができます。BUNKER TOKYOの服に興味をお持ちの方なら、おそらく何か感じるものがあると思いますのでぜひ観て、聴いて、あなたのソ連を感じてみてください

※同様に東西分裂していたベルリンでは、西側の壁付近でデビッドボウイがいくつかのスピーカーを東側に向けたライブが、東の人々の心に火を付け、それがベルリンの壁崩壊につながったと言われています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?