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【文活9月号ライナーノーツ】西平麻依 「もしきみに、どこかの街角で会ったら」

この記事は、文活マガジンをご購読している方への特典としてご用意したライナーノーツ(作品解説)です。ご購読されていない方にも一部公開しています。ぜひ作品をお読みになってから、当記事をおたのしみくださいませ。

 本音を言うと、私は学校がずっと苦手だった。

 学問は時に深くおもしろいし、友人に会えるし、学校生活にだって発見や感動が満ちているから、何一つ文句を言う筋合いはないのだけれど、毎日同じ制服を着ることや、決められたスケジュール通りに動かなければならないこと、それらに何の疑いも持たないでいることが、ほんとうに苦手だった。
 
 大学までなんとか卒業はできたものの、学生生活にはつねに違和感がつきまとっていて、本来誰にも奪われるべきではない自由や価値観が、すこしずつ削り取られていくような気がしていた。このままでは、自分の人生を自分で選び取ることができなくなるのではと思った。でもそれを誰かに打ち明けることは、自分の未熟さがばれてしまいそうで、怖くてできなかった。

 大学の卒業式が終わった時、「ああ終わった、もう二度と学校へ行かなくていいんだ」としみじみ思った。そしてこうも考えた。でももし、もっと早く何か決断と行動をすることができていたら、もっと私らしく自由に生きられたんじゃないかな、と。

 だから、学校をやめて別の道を選んだ人は、自主的であるないに関わらず、私にとってささやかな革命のヒーローだ。たとえば、J.D. サリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』(もしくは『キャッチャー・イン・ザ・ライ』)の主人公・ホールデン・コールフィールドのように。

 昔クラスメイトだった、ある男の子のことを思い出す。彼が学校を去ったのは、高校二年の秋だった。

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