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シュレーディンガーとポッキーの消失による哲学的省察|雪柳 あうこ


 11月11日、11時11分。 
 あたしのシュレーディンガーがいなくなっているのを、観測した。 

 朝8時15分頃だと、中央改札の鳶色のロータリーには等間隔で同じ制服の女子達が並んでいる。皆、友達が来るのを待っているのだ。そこから数分、坂を上ったところにある中高一貫の私立の女子校。その数分を、わざわざ一緒に登校するために。 

 あたしは、皆が電線の雀みたいに見える、その時間帯が大嫌いだった。 

 だからあたしは、とびヶ丘駅に到着するのは早くても9時半以降の電車だと決めている。これだと、ほとんど誰ともすれ違わない。不意に“仄(ほのか)!”なんて自分の名前を呼びかけられることもない。安心して、自分の思考に集中していられる。 

 ――今日は午前中に漢字テストがあると聞いていたので、とうさんとかあさんが家を出てから起き出して、のんびり支度をして、絶対に座れる普通電車を乗り継いで、ことさらゆっくりとびヶ丘駅に到着した。11時過ぎ。 
 もうすぐお昼だなと思って、駅中のコンビニでお昼用の菓子パンを一つ買う。レジ前に“ポッキー&プリッツの日、入荷の個数を間違えたのでぜひ買ってください!(涙)”と書かれた手書きの紙。その横に恐ろしいほど積まれた箱の山にほだされて、うっかりポッキーをひと箱だけ手に取って、つい一緒に会計してしまった。 
 改札を出て、駅前のロータリーへ。
 そして、いつも通りロータリーに置かれた“ベンチ猫”のところへ向かい、――そしてあたしは、シュレーディンガーのいない11月11日、午前11時11分を迎えたのだった。 

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