花の名前|西平麻依
——ねえ、こうやってドーナツをはんぶんこしたこと、忘れないでいてね。
理良が言うと、凌が続ける。
——「人間は忘れる生き物だ」って、誰かが言ってたよ。
——だったらなおさら、覚えていられるか試してみようよ。
漂う海の泡のような、儚い記憶が、十五年の長い眠りから覚めようと、頭の中をあっちへ行ったりこっちへ来たりしている。
リラの花が咲くのは、いまの季節じゃないな、と、ホテルの小さな裏庭を窓から見下ろしながら凌は思った。花のことなど、何も知らない。彼女と同じ名前の花だから、ふと思い出しただけだった。
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