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【能登半島地震】大人も子どもも「ホッと居て」 穴水でカフェデモンク

※文化時報2024年8月27日号の掲載記事です。

 元日の能登半島地震から間もなく8カ月。被災地はいまだ建物や道路の復旧、災害ごみの片付けに追われている。そうした中、石川県穴水町にある仮設団地の一角で、傾聴移動喫茶「カフェデモンク=用語解説=」を開いている宗教者がいる。臨床宗教師=用語解説=で高野山真言宗僧侶の北原密蓮さん(54)=石川県七尾市=は、自宅が被災しながらも、午前は大人が過ごす「ホッと居て」、午後は中高生向けの「スタディデモンク」を行い、心を落ち着ける場を提供している。(松井里歩)

2年後への不安

 7月13日午前。のと鉄道穴水駅のほど近くに整備された応急仮設住宅「川島第2団地」の集会所に、カフェデモンクの看板とのぼりが並んでいた。扉を開けると談笑する住民たち。聞けばこの日は朝から防災訓練があり、団地を取り仕切る地区会長が「そのまま部屋に戻ってしまうよりは」と参加を促してくれたそうだ。

カフェデモンクが行われた応急仮設住宅「川島第2団地」

 室内にはテーブルが四つ並び、住民女性ら15人ほどが、ケーキやお茶を楽しみながら話していた。

 この日は北原さんのほか、東北大学でスピリチュアルケア師=用語解説=の習得を目指す「石川グリーフケアの会」代表の菅朱弥さん、七尾市と石川県志賀町で寺院住職を務める真宗大谷派僧侶の2人がボランティアとして参加していた。

 開催後、宗教者たちの間では「思ったほど愚痴は出ず、世間話が多かった」との感想が共有された。一方で「仮設住宅を出た後の不安」を共通して抱えているようだった。応急仮設住宅に住めるのは最長2年。家を建て直すべきかどうか悩む高齢者にとって、2年後を考えることは容易ではない。

ケーキを味わいながら宗教者と談笑して過ごす住民ら

 車で30分かけて訪れたという女性は「知らない人たちとの方が話しやすいので、どうしても来たかった。能登がまだこんな状態だということを忘れないでほしい」と話した。

理科教諭から僧侶に

 北原さんは在家出身。中学校で理科を教えていたが、御朱印集めを目的に高野山真言宗大王寺(石川県小松市)へお参りするうちに弘法大師空海の教えに出会い、2014(平成26)年に得度した。寺子屋の開催や子どもたちの心のケアに関わりたいという思いを持ち、自閉症スペクトラム支援士や臨床宗教師の資格を取得した。

 地震後の5月からは、中部臨床宗教師会(坂野大徹会長)に所属していたこともあって、生まれ育った穴水町でカフェデモンクを開いている。

 告知には、共通の目的を持った人なら誰でも仲間になれる無料通信アプリ「LINE(ライン)」の「オープンチャット」機能を使う。700人以上がお知らせを見ているという。

 北原さんは「被災者同士で話すと、被災の程度に差があって気持ちがかみ合わないこともある。第三者の立場で聞く活動は必要だという声や、感謝されることもある」と明かした。

学校に行き渋る子

 教員としての経験や僧侶になってからの活動を背景に、北原さんは能登半島地震でも子どもたちの心のケアや居場所づくりが必要だと考え、全国のカフェデモンクでは初となる子ども向けの居場所づくり「スタディデモンク」にも合わせて取り組んでいる。

子どもの悩みを持つ母親の話を傾聴する北原さん(左)

 7月13日は仮設住宅に住む高校2年の男子生徒が「ケーキが食べたくて」と1人で訪れ、選んだケーキを黙々と味わっていた。話を聞くと、家は全壊ですでに解体を終えており、大学進学を機に金沢などへ家族で引っ越そうと考えているという。「地震がなかったとしても、地元を出ていきたい同級生は多いと思う」と語った。

 地震後に小学校へ行き渋るようになったわが子のことをどう捉え、いかに関わればいいか―。ある母親は、そうした悩みを北原さんに相談した。「ここのことは、友人から教えてもらった。いろいろな人の話を聞きたかったので、来てよかった」と話した。

 北原さんは「今後は足湯の提供に取り組む他宗派の僧侶らと協働するなどして、落ち着ける場所にし続けたい」と話している。

【用語解説】カフェデモンク(宗教全般)
 2011(平成23)年の東日本大震災を機に始まった超宗派の宗教者による傾聴移動喫茶。コーヒーやスイーツを振る舞い、人々の心の声に耳を傾ける。曹洞宗通大寺(宮城県栗原市)の金田諦應住職が考案し、僧侶や修道士を意味する英語のモンク(monk)と文句、悶苦の語呂合わせで命名した。全国の災害被災地や緩和ケア病棟など14カ所に広がっている。

【用語解説】臨床宗教師(りんしょうしゅうきょうし=宗教全般)
 被災者やがん患者らの悲嘆を和らげる宗教者の専門職。布教や勧誘を行わず傾聴を通じて相手の気持ちに寄り添う。2012年に東北大学大学院で養成が始まり、18年に一般社団法人日本臨床宗教師会の認定資格になった。認定者数は24年4月現在で210人。

【用語解説】スピリチュアルケア師
 日本スピリチュアルケア学会が認定する心のケアに関する資格。社会のあらゆる場面でケアを実践できるよう、医療、福祉、教育などの分野で活動する。2012年に制度が設けられ、上智大学や高野山大学など8団体で認定教育プログラムが行われている。

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