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コロナを越えて⑱成長の源は「自己中心的利他」

株式会社三源庵社長 山田喜雅氏

※文化時報2021年8月9日号の掲載記事です。

 カステラとしては世界初の機能性表示食品=用語解説=となる「キオクカステラ」を開発した株式会社三源庵(京都市伏見区)。山田喜雅社長(38)は「お客が求めるものをいかに体現するかが大切」と話す。背景にあるのが、神道の信仰。小さな菓子製造業者を複数の大手デパートと取引する企業に押し上げたのは、社会との絆の中で自らがやりたいことを考える「自己中心的利他」の精神だった。(大橋学修)

結果が後からついてきた

 《三源庵は、カステラなどの焼き菓子を製造販売する企業。記憶力が良くなる「キオクカステラ」を昨年10月に発売し、続いて視力が向上する「ひとみカステラ」の販売を始めた。商品開発には、臨床試験などで2年を要したという》

――「キオクカステラ」は、世界初の機能性表示食品と伺っています。なぜ開発しようと考えたのですか。

 「他社とは異なる切り口で、できることを考えた結果だ。これまでも、いかに付加価値を付けるかに腐心してきた。例えばレーザーを使って菓子や木箱に名入れするサービス。すると、ベビー用品販売大手が注目してくれて、取引が始まった。どうすればお客が喜ぶのかを考え、結果が後からついてきた」

――時代の波を見極めたということもありますか。

 「製薬業界は、ジェネリック医薬品(後発医薬品)の使用が進んだため、予防医学で用いるサプリメントの開発にかじを切っている。それが食品業界にまで波及した結果、機能性食品が選ばれる流れになったのだと思う」

 「ただ、自分たちだけで何かしようとしたのではなく、社会との絆の中で何ができるかを考えた結果だと言える。そういう意味では、新型コロナウイルス感染拡大下という新しい環境にもなじんでいかなければならない」

義父に見込まれて

――社長になられたきっかけは。

 「父のリストラに伴って大学を中退し、大手スーパーで4年働いた後、叔父の勧めで造園業を始めた。お客が求めることを体現する姿勢が大切だと確信し、外構工事やガス配管などにもサービスを拡充した。当時の経験が、今に生きている」

 「三源庵の親会社は義父が立ち上げ、一代で20億円規模の売り上げを誇る企業に育てた。その経営手腕を学びたいと頼み込んで、2010年7月に入社。パソコンが得意だったこともあり、関連会社でインターネット通販事業の立ち上げを担当した」

 「いろいろと戦略を練って始めたら、カステラが1週間で6万個も売れて、社内がパンクした。それがきっかけで、11年7月に三源庵の代表取締役を任された」

経済面・三源庵山田社長02.JPG

世界で初めて機能性表示食品として登録されたカステラを紹介する

 《社員は15人。自分より年上で、父母と同年代の人ばかりだった。最初は思うようにいかなかった》

――当時の三源庵は、どのような状況だったのですか。

 「ものづくりの技術はあっても、販売する方法を誰も知らなかった。新商品を企画するようになって、最初にヒットしたのが半熟カステラ。注文が殺到してサーバーがダウンし、発送まで3カ月待ちの人気商品となった」

 「ただ、その後の3、4年は苦しかった。健全な経営ができているとは言えなかった」

見えない存在を意識

 《山田氏は「目に見えないものが存在するのは当たり前と感じている」と話す。それは、神道を信仰する祖父母の影響と考えている》

――社会との絆というお話がありましたが、その考え方は信仰から得られたものですか。

 「神道については、宗教としてあがめているというよりも、生活の中に存在していると感じている。それが信仰と言えるかは分からない。ただ、目に見えない存在が、ありがたさや喜びを感じることにつながると思う」

――ありがたいという思いが、お客の求めを体現しようとする考え方につながるのですか。

 「感謝して生きるから、他を助けたいと思うようになる。ただ、自分が傷つきながら人を助ける姿は美しいが、賛同できない。助けたいという思いは、本来は自己中心的。『自己中心的利他』の精神で助けたい、という思いを原点とし、行動すべきだ」

 「企業経営も、これを軸とすると決めている。柳の木は、一つの場所に根を張ると動かないが、折ろうとするとしなやかに戻る。自分が一番楽に落ち着ける所に根を下ろし、どんな大変な状況であっても自分らしくいられることが大事だ」
      ◇
【用語解説】機能性表示食品
 「おなかの調子を整える」や「脂肪の吸収を穏やかにする」といった健康の維持・増進に役立つ機能を、事業者の責任で表示できる食品。科学的根拠を消費者庁長官へ販売前に届け出る必要がある。国が効果や安全性を審査する「特定保健用食品(トクホ)」とは異なる。

経済面・三源庵山田社長01

 山田喜雅(やまだ・よしまさ)1983(昭和58)年2月生まれ。兵庫県尼崎市出身。隣家から出火した火事で焼け出され、転居先の大阪府島本町で少年期を過ごした。大阪経済大学入学後、父のリストラに伴って退学。大手スーパー社員や造園業者などを経て、2011年に株式会社三源庵の代表取締役に就任した。趣味は、早朝の秘湯に入って動物と交流することという。
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