見出し画像

【能登半島地震】〈社説〉震災過労死を警戒せよ

※文化時報2024年1月26日号の掲載記事です。

 阪神・淡路大震災から29年かけて積み上げてきた災害支援の教訓と知見を、今こそ能登半島地震の被災地で生かさなければならない。発生から間もなく1カ月というタイミングで「災害関連死」への関心は高まっているが、「震災過労死」への警戒も怠るべきではない。

 災害関連死は、地震による建物の倒壊や火災・津波といった直接の原因ではなく、避難生活での体調悪化などで亡くなることを指す。持病やストレスが影響する場合もある。

 17日に発生から29年となった阪神・淡路大震災で初めて指摘され、東日本大震災など災害が起きるたびに、悲劇が繰り返されてきた。2016(平成28)年の熊本地震では、直接の原因で亡くなった50人の4倍以上に当たる218人が災害関連死と認定された。

 能登半島地震では22日現在、233人の死亡が確認されており、このうち15人に災害関連死の疑いがあるという。被災地には高齢者が多く、寒さに加えて感染症の流行も懸念される。対応が急を要するのは、衆目の一致するところだろう。

 石川県は、被災地の外にあるホテルや旅館などへの「2次避難」を呼び掛けている。実際に避難する人はまだ少なく、環境の変化に伴う不安や故郷への愛着に寄り添うことが欠かせない。心のケアを得意とする宗教者たちにも、県は積極的に協力を求めてほしい。

 一方の震災過労死については、明確な定義や統計があるわけではない。能登半島地震では、まだ注目されてもいない。

 だが、過去の災害では時間の経過とともに実態が明らかになった。共同通信の報道によれば、東日本大震災で復旧・復興業務が原因と認定された東北3県における公務災害(労災に相当)は、128件。このうち過労死・過労自殺した人は4人に上った。

 報道は21年2月24日付であり、発生から10年近くたってようやく判明したデータである。しかも、公務員だけが対象であり、民間の業者や医療・福祉関係者は含まれていない。

 不眠不休での災害対応や復旧・復興への献身的な営みは、往々にして美談として取り上げられる。そうした利他の精神を知ることには、被災地へ思いを寄せ、心を一つにする効果があることは否定しない。

 しかし、その陰にはやり場のない怒りやいら立ちの矢面に立たされる自治体職員がおり、家族の心配をする暇などなく工事や作業に追われる労働者がいる。自らも被災者である復旧・復興の担い手たちが、働き過ぎて命を落とすことがあっていいはずがないのだ。

 すでに多くの自治体や企業・団体が被災地に応援要員を派遣しているが、「つらい」「しんどい」と言ってもいいという心理的安全性を含め、被災地の外から入る人たちも安心して復旧・復興に取り組める環境を整えるべきだろう。

 過去の災害現場では、支援者らが疲弊してぎくしゃくしそうなときでも、チームに宗教者がいるだけで場が和んだという話がある。震災過労死の防止に宗教者が貢献できることがあると、多くの人に知ってほしい。

【サポートのお願い✨】
 いつも記事をお読みいただき、ありがとうございます。

 私たちは宗教専門紙「文化時報」を週2回発行する新聞社です。なるべく多くの方々に記事を読んでもらえるよう、どんどんnoteにアップしていきたいと考えています。

 新聞には「十取材して一書く」という金言があります。いかに良質な情報を多く集められるかで、記事の良しあしが決まる、という意味です。コストがそれなりにかかるのです。

 しかし、「インターネットの記事は無料だ」という風習が根付いた結果、手間暇をかけない質の悪い記事やフェイクニュースがはびこっている、という悲しい実態があります。

 無理のない範囲で結構です。サポートしていただけないでしょうか。いただければいただいた分、良質な記事をお届けいたします。

 ご協力のほど、よろしくお願いいたします。

サポートをいただければ、より充実した新聞記事をお届けできます。よろしくお願いいたします<m(__)m>