【支援の視点―能登と東北】➄宗教者「つなぐ」存在に
※文化時報2024年4月19日号の掲載記事です。
「将来なんて考えている場合ではない」「まだ早いでしょう」
能登半島地震から1カ月余りたった2月22日、須須(すず)神社(石川県珠洲市)の猿女(さるめ)貞信宮司は、周辺4地区の区長からそうした言葉を投げ掛けられた。復興について共に考えようと、区長らに集まってもらった際の出来事だ。
協議を始めようとしたのは、珠洲市出身の大学生2人が2月18日、須須神社で復興を考えるイベントを開いたのがきっかけだった。女川町の再生に携わった関係者の発表を聞いた参加者たちが、復興に必要と思われるアイデアを出し合った。
猿女宮司は「まずは集う場をつくるべきだ。その先に組織づくりや計画づくりがある」と感じたという。
高齢の区長らとの初めての協議は不調だったが、「新しいことを考える役割を担うのは下の世代だ」と考え、石川県内の若者10人余りに声を掛けた。今後はオンラインで話し合える環境を整え、場づくりを進める。
クラウドファンディング(CF)や会員制交流サイト(SNS)を使った発信も行っている。被害を受けた鳥居や灯籠などの再建と地域づくりを掲げたCFは15日現在で目標額を上回る527万円余りが集まった。
取り組みは奏功しているようにも見えるが、猿女宮司は「新しいファンの獲得を狙ったが、なかなかうまくいかない現実を感じた」と険しい表情を見せる。
災害復興支援や宗教者を交えた地域づくりに関わる山口洋典立命館大学教授は「他の地域の事例を踏襲しても、成功するとは限らない。実施しない事項を決めて、優先順位を付ければ、復興への時間軸ができる」と話す。
宗教者の役割については「縦横のネットワークづくりが大事。リーダーには、皆を引っ張っていくタイプと、皆の結び目になるタイプがある。一人でがんばらず、間をつなぐ存在になってほしい」と語った。
倒壊建物の撤去さえ手付かずの状態にある被災地で、復興を見据えて語ろうとする気持ちになれる人は、まだ少ないのかもしれない。
それでも、地域を再生させられるのは、地域の人々しかいない。人々の縁を結ぶ地域の宗教者と、宗教者を支える仲間たちの存在が重要となるだろう。
=おわり
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連載は大橋学修、佐々木雄嵩、松井里歩が担当しました。
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