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「死の体験旅行」経験者の医師が語る

※文化時報2021年6月3日号の掲載記事を再構成しました。写真は「死の体験旅行」の様子。

 死を疑似体験するワークショップ「死の体験旅行」を手掛ける超宗派の僧侶団体、仏教死生観研究会(代表、浦上哲也・慈陽院なごみ庵住職)が7日、初の公開講座「僧医工夫」をオンラインで開講する。著書『もしも一年後、この世にいないとしたら。』(文響社) で知られる腫瘍精神科医、清水研氏を招き、「がん患者のケアと死生観」をテーマに学びを深める。

 同研究会は2018年に発足。10宗派21人が所属し、ホスピスの職員研修を基にしたワークショップ「死の体験旅行」を一般向けに主催している。

 講師を務める清水氏も、ワークショップ受講者の一人。がん患者の心のケアを専門とする腫瘍精神科医として、がん研究会有明病院(東京都江東区)で勤務する。当日は、4千人以上のがん患者と向き合ってきた経験を基に、死を前にした人の心の動きや寄り添い方について講義する。

 講座は当初、研究会内部の勉強会として計画していたが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で開催を断念。一般参加者を交えた公開講座として再度企画し、すでに200件を超える申し込みが寄せられているという。

自分の問題と捉える

 「あなたは充実した日々を過ごしています。忙しさのせいか、おなかの辺りに不快感を覚えることがありますが、あまり気にしてはいませんでした」

 ワークショップ「死の体験旅行」は、浦上住職のそんな語りから始まる。小さな体調不良から発覚した病気は徐々に悪化し、やがて死を迎える。参加者は、自身が大切に思う物事を紙に書き出し、ストーリーの進行に合わせて一つずつ手放していく。家族、仕事、お金。最後まで手元に残るものは、さまざまだ。

 「死の体験旅行」は元々、ホスピスや病院の職員研修として考案されたワークショップ。疑似体験を通じ、死を目の前にした人々の苦痛や葛藤に心を寄せる。

 浦上住職は「亡くなった方の苦しみやご遺族の喪失感に寄り添いたい」との思いから、このワークショップに参加。体験談をインターネットで公開したところ、「自分も体験したい」という要望が多数寄せられたため、自身が進行役となって開催するようになった。
 
 2013(平成25)年の開始以来、主催したワークショップは200件以上。参加者数は延べ約3800人を数える。人の生死に直接携わる僧侶や医療従事者を中心に、セラピスト、ヨガ講師、生命保険会社や飲料メーカーの社員など、多種多様な属性を持つ参加者が集う。
 
 「死の体験旅行」が求められる背景には、東日本大震災をはじめとする一連の大規模災害があるという。「死をタブー視せずカジュアルに語り合う姿勢は、死が身近にあるという認識から生まれたものだ」と、浦上住職は分析する。

 高齢化に伴う死亡者数の増加も要因の一つだ。自身の死を見据えて「終活」に取り組む人が増え、「長生きよりも尊厳ある生き方を」との思いから延命治療の拒否を表明する人も少なくない。

 一方で浦上住職は「死を否定的に捉えず、諦観をもって向き合うという仏教の死生観が悪用されれば、望まない人に死を強制するような空気感を生んでしまうかもしれない」と、警鐘を鳴らす。

 「死を自分の問題として語り合うとともに、しっかりとした死生観・死後観を養うことが重要。公開講座や研究会メンバーのブログなどを通して発信していきたい」と、意気込みを語っている。(安岡遥)

死生観研究会・浦上住職

 浦上哲也(うらかみ・てつや)1973(昭和48)年生まれ。東京都大田区の一般家庭出身。大学卒業後に入社した企業を退職し、真宗高田派寺院の住職を務める親戚の勧めで得度。2004(平成16)年、浄土真宗本願寺派の僧侶養成校・東京仏教学院(東京都中央区)を修了した。06 年に開設した自坊・なごみ庵の住職を務める傍ら、仏教死生観研究会の代表、「自死・自殺に向き合う僧侶の会」共同代表の一人としても活躍する。
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