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「介護者カフェ」お寺で再開 コロナ禍越え

※文化時報2020年9月16日号の掲載記事です。

 京都市東山区の浄土宗金剛寺(中村徹信住職)は9日、8カ月ぶりに「介護者カフェ」=用語解説=を開催した。介護にまつわる悩みやつらさを語り合う取り組みで、寺院として行うのは関西では同寺が先駆けとして知られる。今回はACP(人生会議)=用語解説=をテーマに、行政機関が協力。行政の手が届かない範囲に、仏教が光を当てることで、地域の人々の和を作り上げていこうとする姿勢が見られた。(大橋学修)

ACPで自分らしく

 「金剛寺介護者カフェ」と題して昨年9月に第1回が開かれ、1年を迎えた今回は5回目の開催。新型コロナウイルスの感染拡大や豪雨災害などで1月以降は中断を余儀なくされた。今回は初めて事前予約制にして密閉、密集、密接の「3密」を避け、テレビ会議システム「Zoom(ズーム)」も併用した。

 協力した行政機関は「京都市下京区・南区・東山区在宅医療・介護連携支援センター(連携センターべんけい)」。地域医療や介護関係者の連携を後方支援している。同センターでコーディネーターを務めるケアマネジャーの堀田裕氏が講師を務めた。

 堀田氏は「ACPって何?」と題して講演。ケアマネジャーとしての体験から、認知症の症状が出始めた妻を残して、がんで急逝した年下の夫の事例を語った。夫は、自分が妻を看取ることを想定していたため、将来設計を考えていなかった妻が苦労することになったという。

 その上で、自分がどのような治療を受けたいか、どこで人生の最期を迎えたいのかなどを、医師やケアマネジャーの支援を受けながら、家族を交えて話し合い、文書にして残していくことが、自分らしく生きるために必要だと指摘した。

 また「人の気持ちは変わっていくもの。何度も繰り返し、どんな医療を受けたいのかなどを、時間をかけて話し合うことが大切」と強調。具体的な備えとして、財産管理に成年後見制度=用語解説=を活用する方法も紹介した。

2020-09-16 浄土宗・金剛寺・介護者カフェ(ACPを学ぶ)01

ACPについて講演する堀田氏

 続いてグループトークを行い、中村住職や堀田氏らがそれぞれの抱える思いを傾聴。参加者らは自然と共感し合ったり、お互いにアドバイスをしたりしていた。

「楽しむため」「心が軽く」

 金剛寺の介護者カフェは、参加者に立場や居住地などの条件を定めていない点に特徴がある。事業所が開催するケアラーズカフェでは、有料のところもあるが、参加費は無料だ。これによって、行政がカバーできない範囲をサポートできているという。

 堀田氏は「地域の資源としてお寺を生かすことは大切。どこにも行けない人たちをすくい上げることができている」と評価する。

 今回は他府県からの参加者もいた。滋賀県在住の女性は「こういった会に参加していることを、夫に知られると大変。近隣の人に知られることもはばかられる」と打ち明けた。

 地域の人々がつながるきっかけにもなっている。脳梗塞で不自由になった経験を持つ近隣住民の安達利夫さん(73)は「要介護者の支援を通じて社会と関わりたい、と考えて参加するようになったが、語り合ううちに動機が『楽しむため』になってきた」と笑う。

 初参加という松村佳世子さん(79)は「夫の介護について学びたいと思って参加した。自分の経験を人に伝えることで心が軽くなった。人は、誰かに何かを伝えたいものなのだなと感じる」と話し、次回の介護者カフェへの参加申し込みを行っていた。

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グループトークはZoomで中継しながら行われた

 中村住職は「介護で抱える問題は、それぞれ異なるが、共通する部分はあると思う。どうか心を楽にしてほしい。人と人の縁を広げる場として、お寺が役に立てるのではないか」と語っている。
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【用語解説】介護者カフェ
 在宅介護の介護者(ケアラー)らが集まり、悩みや疑問を自由に語り合うことで、分かち合いや情報交換をする場。「ケアラーズカフェ」とも呼ばれる。主にNPO法人や自治体などが行い、孤立を防ぐ活動として注目される。

【用語解説】ACP(アドバンス・ケア・プランニング)
 主に終末期医療において希望する治療やケアを受けるために、本人と家族、医療従事者らが事前に話し合って方針を共有すること。過度な延命治療を疑問視する声から考案された。「人生会議」の愛称で知られる。

【用語解説】成年後見制度(せいねんこうけんせいど)
 障害や認知症などで判断能力が不十分な人に代わって、財産の管理や契約事を行う人(後見人)を選ぶ制度。家庭裁判所が選ぶ法定後見制度と、判断能力のあるうちに本人があらかじめ選んでおく任意後見制度がある。

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