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「新しい宗教様式」新型コロナ機に

※文化時報2020年9月19日号の掲載記事を再構成しました。

 浄土宗は11日、浄土宗総合学術大会で行う予定だったパネル発表「ウィズ・コロナ時代に寺院はどう向き合うか」をオンラインで実施した。学術大会は、総合研究所員や宗門大学の研究者らが教学・教化に関する成果を発表する場だが、コロナ禍で中止され、パネル発表のみ浄土宗寺院向けにオンラインで配信した。

 登壇したのは髙瀨顕功氏(大正大学専任講師)、大河内大博氏(佛教大学非常勤講師)、森田康友氏(同)、戸松義晴氏(総合研究所主任研究員、全日本仏教会理事長)の4人。大谷栄一佛教大学教授と今岡達雄総合研究所副所長がコーディネーターとなって、「『新しい宗教様式』の課題」「死のタブー化の強まりと個人化への対応」をテーマに、意見交換を行った。

 大谷教授は「従来の葬儀や法務が、檀信徒との対面で密なコミュニケーションを前提とした総合行為であることが明らかになった」と分析。その上で「コロナ禍の新しい生活様式に対応する儀礼の在り方を『新しい宗教様式』と名付けたい」と話した。

 髙瀨氏は「伝え方は状況に応じて変える必要があるが、儀礼の本質は変わらない」と話し、大河内氏は「信仰と日常を守るキーパーソンとして、これまで通りのことを丁寧に作り上げることが大切」と語った。

 戸松氏は「リモート化を過度に進めると、人が寺に来なくなる。伝統の関係性を保つ意図を私たちが説明できなければならない。私たちの基盤は『密』であり、それをいかに実現するかが大切」とした。

 「死のタブー化の強まりと個人化への対応」についての議論では、大河内氏が「社会が個人の死を受け入れる機能を失ったことで、グリーフ(悲嘆)ケアの必要性が高まった」と発言。戸松氏は「人が集まることは全て簡素化されていく。私たちは、葬儀のどこに本質があるのかを考えることが必要。葬儀の形ではなく、何を求められているのかを考えなければならない」と話し、森田氏は「葬儀で略せない部分が、信仰を伝える部分になる」と指摘した。

 終了後の記者会見で今岡副所長は「コロナ禍はこれまでの寺院運営におけるウイークポイントに、大きな影響を与えた。檀信徒との対面のコミュニケーションを怠ってきたことを、どう補うのか。僧侶と教団の胆力が試される」と話した。

 登壇者4人の主な発言内容は、以下の通り。

「一日葬」が一般的に 髙瀨顕功氏

2020-09-19 浄土宗・総合学術大会高瀬氏

 髙瀨氏は、大正大学地域構想研究所BSR推進センターが行ったコロナ禍における影響調査の分析結果について発表した。

 政府の緊急事態宣言下で特定警戒都道府県に指定された13都道府県と、そうでない県の違いを分析。13都道府県で葬儀の簡素化が進み、特に首都圏では顕著だったことを示した。通夜を行わない「一日葬」が、一般的な選択肢になったことも明らかにした。

 また、「集まることのリスクを感じた結果、全国的に葬儀や法事の規模が縮小した」と指摘。「月参りなどで檀信徒の自宅を訪れる場合は、寺院で行う法務よりも、リスクが低いと感じていることが分かった」と述べた。

 感染拡大に応じて儀礼の在り方が変化していることを踏まえ、「葬儀や法事の参列者の減少や行事中止の影響は、寺院が檀信徒と接する場が減ることにつながる」との見解も示した。「布教伝道や仏教文化の継承といった観点からの懸念もある。それぞれの行事が以前の姿に戻るか、このまま定着するかを判断するには、経年調査が必要」と話した。

「さよならのない別れ」が尊厳奪う 大河内大博氏

2020-09-19 浄土宗・総合学術大会大河内氏

 大河内氏は「持続可能な法務の提案―月参り・法事・葬儀の本質と変質」と題して発表した。

 コロナ禍の前と比較し、「一日葬」のように、仏教儀礼の省略や簡素化、規模の縮小化がみられると指摘した。

 その上で、「葬儀は人の死を受け入れるための重要な儀礼。地域コミュニティーが死を受け入れることで、悲嘆を受け入れやすくしている。喪に服すことや、遺族の強い感情表現を認めることが、グリーフケアに相当する」と語り、コミュニティーの脆弱化に警鐘を鳴らした。

 さらに、社会が死を受け入れる作業を行わなくなったことで、悲嘆が個人化され、グリーフケアの必要が増してきたと強調。「新型コロナウイルスによる死別は、突然の別れであり、面会・看護・看取りの機会がなくなる」と述べ、喪失感や罪悪感の高まりに懸念を示した。

 また、「さよならのない別れ」は、死者や遺族の尊厳が奪われることだと指摘。「持続可能性のある法務を行う必要性がある」と訴えた。

リモートで若者にも受け入れ 森田康友氏

2020-09-19 浄土宗・総合学術大会森田氏

 森田氏は、「公衆衛生を踏まえた儀式執行の在り方を考える」をテーマに発表した。対策を講じることで、儀礼や僧侶養成の実施が可能になることを示した。

 新型コロナウイルスに感染して亡くなった人の葬儀で遺族と打ち合わせを行う際には、僧侶が濃厚接触者となって、葬儀が行えなくなる恐れを指摘。電話などを用いるよう提案した。防護服の着用などで、感染予防策を徹底することも求めた。

 年忌法要などでは、リモートの活用も有効だと指摘。遠隔地からの参加や、ドローンなどを用いた新しい視点の提供が見込まれ、若者に受け入れられやすい法要になる可能性を示した。

 僧侶養成の道場においても、入行者数の抑制やPCR検査などを行うべきだと提示。「こうした感染対策が、一般寺院や家庭、学校での集団生活に生かせると考えることが大切」とした。

 最後に、コロナ禍での変則的な対応を、「将来別の感染症が蔓延しても、慌てることなく対応できるための経験になる」と位置付けた。

政府・行政と宗教界が連携を 戸松義晴氏

2020-09-19 浄土宗・総合学術大会戸松氏

 戸松氏は全日本仏教会の調査に基づき、儀礼の中止などで寺院経営が成り立たなくなった事例を紹介し、寺院活動の方向性について提案した。

 世界保健機関(WHO)が宗教指導者や宗教コミュニティーに向けたメッセージで、「多くの人々がコロナ禍の中で不安を抱えているので、活動を停止しないでほしい。ただ、集まることは避け、リモートや手紙、電話を使ってほしい」と発信したことを紹介した。

 また、日本宗教連盟の5団体が、宗教界で対応可能なこととして「医療的知識を必要としない政府や行政との連携」を掲げ、具体的には都内の寺院が駐車場をドライブスルーのPCR検査場所に提供する動きがあったことを伝えた。

 檀信徒らとの関係性を構築するために、オンラインを使った実例を挙げ、「新しい生活様式であっても、困っている人に寄り添うことは必要。コロナ禍を機会として新しい関係性を結び、地域や文化、一人一人の思いや違いを認め合う価値観を創造することが必要だ」と訴えた。

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