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中絶の苦に寄り添う

※文化時報2022年7月22日号に掲載された社説です

 1985年に出版されたジョン・アーヴィングの『サイダーハウス・ルール』は、20世紀前半の米国を舞台にした青春小説である。主人公ホーマーが育った孤児院では、創始者で産婦人科医のラーチ医師によって、望まない妊娠をした女性の人工妊娠中絶も行われていた。当時の米国では禁止されていた行為であり、物語を貫くテーマの一つである「ルール」に関わる重要な舞台設定となっている。

 この時代に時計の針を戻そうとする判決が、米国で言い渡された。新聞各紙の報道によれば、米連邦最高裁は6月24日、中絶を「憲法上の権利」であると認めた73年の判例を覆し、「憲法は中絶する権利を与えていない」と判断した。

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