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人生会議を考える

※文化時報2021年9月20日号の掲載記事です。

 在宅医や患者・家族がアドバンス・ケア・プランニング(ACP)を宗教の観点から考えるパネル発表が、8日の日本宗教学会第80回学術大会であった。帝京大学の冲永隆子教授(終末期医療、死生学)ら5人が「コロナ禍の『人生会議』―『生と死』にどう向き合うか」をテーマに研究成果を報告。ACPにおける自己決定を巡って議論を深めた。

 「人生会議」の通称で知られるACPは、2007(平成19)年に厚生労働省が「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」として導入。希望する生活や最期の迎え方、ケア方針などについて、患者を主体に家族・医療者・介護者らが話し合いを重ね、意思決定を支えることを指す。

 パネル発表ではまず、冲永教授が「『人生会議』をめぐる問題提起」と題して論点整理を行った。死をタブー視する日本特有の価値観や「本当に実現できるか」という不安がACP実施の障壁になっていることを示した上で、「決められない、決めない」という選択への向き合い方を議題に据えた。

 続いて、山梨大学大学院の秋葉峻介特任助教が「人生会議は『自律的』な営みか?」と題して発表。「ACPは、弱い個人を前提としつつ、自律や自己決定を重んじる枠組みから脱しきれていない」と指摘し、「患者個人が『決める』のではなく、周囲の人々との関係性の中で『決まる』というプロセスに目を向けては」と問題提起した。

医師・患者・家族が語る

 これを受け、在宅医として勤務する上智大学大学院の井口真紀子氏、19年から乳がんで闘病している順天堂大学の入澤仁美助教、妻をがんで亡くした経験を持つ大曲聖書バプテスト教会(秋田県大仙市)の蒔田栄牧師が、人生会議と自己決定に関する体験を語った。

人生会議

登壇した冲永氏、秋葉氏、井口氏、入澤氏、蒔田氏(左から)

 井口氏は昨年、在宅医18人に聞き取り調査を実施。人生会議にまつわる語りを紹介し、「医学的な正しさは根拠となりにくい。本人の意思を尊重するだけでなく、共に探求する姿勢が重要だ」と指摘した。その上で、「人の意思ではどうにもならないことを受容し、『決まらないことも一つの答え』と受け止める必要がある」と語った。

 入澤助教は、自身の闘病体験から、家族や医師との人生会議の様子、新型コロナウイルス感染拡大の影響などを紹介。医師に家族間のACPを突然勧められたことで戸惑いを感じた経験を明かし、「限られた情報の中、家族だけで結論を出すことは難しい。医師などの第三者も交えて考えをまとめ、自分をよく知る人が代弁者となってくれることが目標」と訴えた。

 蒔田牧師は、妻が末期がん宣告を受けた際、聖書の言葉や祈りに救われた経験を振り返った。「何かを決められなくても、その日の営みに取り組むことに意味がある」と述べ、「決められないことを決めようとする行為が苦しみを生む。自己決定を重んじ過ぎることには危惧を感じる」と疑問を投げ掛けた。

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