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【能登半島地震】土砂崩れ…住職・御堂失う 珠洲市大谷地区

※文化時報2024年2月20日号の掲載記事です。

 元日の能登半島地震で、真宗大谷派廣榮寺(石川県珠洲市)住職の大廣永世(おおひろながよ)さん(55)の死亡が確認された。同寺のある珠洲市大谷地区は、能登半島北端の海と崖に挟まれた場所に位置しており、多くの家屋と同様、御堂(みどう)もまた土砂崩れでなぎ倒された。住民の多くは門徒。信仰の支えだった住職とお寺を一瞬で失い、集落にはわずか十数人しか残っていないという。(佐々木雄嵩)

 道路が寸断され、岩礁が露呈したことで船舶の接近も困難となったことから、大谷地区は1月16日まで孤立状態にあった。今は狭い峠道と田んぼのあぜなどに応急措置としてつくった迂回(うかい)路が、支援者と避難者の通り道となっている。

 避難所となった大谷小中学校には一時、住民300人余りが身を寄せていたが、今は地元での卒業を願う児童と家族、高齢者の十数人が残るだけとなった。

崖の前に立つ大谷小中学校。背後には海がある

 避難者らをまとめているのは、市議の川端孝さん(60)。廣榮寺の門徒で、地元消防分団の副団長も務めている。「孤立状態が解消されてから、若者や家族のある人は県外へ去ってしまった」。当初は20人近くいた団員も、残ったのは川端さんを含めて3人。千葉県庁から職員4人が応援に来ているが、高齢者の世話などで避難所を維持していくのがやっとだという。

 川端さんの自宅は倒壊を免れたが、仏壇は倒れ、家財道具が散乱。人づてに墓も大きな被害を受けたと聞いたが、まだ確認できていない。「家のことは家内に任せきりで申し訳ないが、今は避難所運営で手いっぱい」と話し、墓の方角に向かって手を合わせる。

 「墓はいつでも直せる。今は生きている人が最優先だ」

凄惨な光景、脳裏離れず

 分団員らは地震発生後すぐ、生き埋めとなった住民の捜索に当たったが、多くの家屋に土砂が流れ込み、救助は困難を極めた。「土砂を取り除くたびに、別の土砂が流れ込む。救えなかった命が多い」。川端さんは沈んだ表情で当時の状況を振り返る。

 犠牲となった8人の遺体を発見したときは、ショックが大きかった。「土砂に切り裂かれ、あまりにも無残だった」。住民らを説得し、無事だった公民館を遺体安置所として使用。仲間と共に運び込んだが、その時の凄惨(せいさん)な光景が脳裏を離れず「ここにいるのはつらい」と、集落を去った団員も出た。

避難所を運営する川端さん

 安否不明だった廣榮寺住職の大廣さんは、自衛隊員らによって1月28日にようやく発見された。川端さんは「住職が犠牲になったことは本当につらい。生きていてくれたら、地区の希望となってくれたはずだ」と、死を悼んだ。

 一時は全国紙の記者たちが取材に押し寄せた。川端さんは「遺(のこ)された寺族は心の整理がついておらず、取材は全て断った。今必要なのは、遺族へのケアだ」と語気を強める。

 「皆ここを離れていくが、自分は最後まで離れるつもりはない。門徒の一人として、残された寺族の心に寄り添っていければ」。川端さんは、そう話している。

本尊確認後に本堂倒壊
大廣さん本葬

 元日の能登半島地震で亡くなった真宗大谷派廣榮寺住職、大廣永世さんの本葬が11日、金沢市内の宗派寺院で営まれた。

 親戚らによると、大廣さんは元日、地震後に本堂へ駆け込み、本尊が無事かどうかを確認。2度目の揺れで裏山が崩れて土砂が流れ込んだことにより、本堂の倒壊に巻き込まれたという。遺体は1月28日に見つかった。

 大廣さんは京都大学を卒業後、一般企業に就職。5年ほど前に自坊へ戻り、住職に就いた。地元の公民館長も務めており、親戚の一人は「過疎化が進む能登地方でお寺に戻るのは大変な勇気がいる。地元を盛り上げたいという志があったのだと思う」と肩を落とした。

 2月6〜8日に開かれた宗議会宗政調査会では、能登教区選出の佐々木高参務から大廣さんの訃報が報告された。

 本山の災害救援本部長を務める那須信純参務は「本尊を確認しに動かれたことは頭が下がる思いであると同時に、無念でならない。宗派として、真宗の土徳がある能登を全力で支援していく」と改めて誓った。

土砂崩れで倒壊した真宗大谷派廣榮寺

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