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職人技もリモート研修 コロナ禍逆手に

※文化時報2021年10月28日号の掲載記事です。

 京都府仏具協同組合(田中雅一理事長)が、「京仏壇・京仏具」を作る業者や職人らにユニークな研修を行っている。自分の専門とは異なる職人技の見学や体験を通じ、技術力や営業力を高めてもらう取り組みだ。新型コロナウイルスの影響で普及したリモート研修を、伝統工芸の世界もしたたかに取り入れ、自らの研鑚に活用している。(主筆 小野木康雄)

 「胸の前に三脚を立てて撮影したので作業はやりにくかったですが、手元がしっかり映っています。普段の実演だと、お客さんからは見えない角度ですね」

 木製仏具部門・箔押(はくおし)の伝統工芸士=用語解説=、平城輝男さん(66)がテレビ会議システム「Zoom(ズーム)」を通じて語り掛けると、参加した職人らはそれぞれの画面をのぞき込んだ。流されていたのは、平城さんが〝自撮り〟した動画。仏具の台座の一部、「カエリバナ」に金箔を押す丹念な仕事ぶりが映されていた。

 今月6日夜に組合が行った「部門研修」。もう一人の講師で仏像彫刻部門の伝統工芸士、齋藤駿さん(38)も、像高9センチの木像を彫り上げる様子を1時間弱の動画に収めた。彫刻刀の研ぎや荒彫りといった工程を見せながら、「大胆に攻めつつ、慎重に彫り進めていく」「経験すれば手先は器用になる。手よりも目を鍛えることが大事」などと説明を加えた。

 他の職人からはチャット機能を通じて質問が相次ぎ、研修は活気にあふれた。研修委員長を務める木製仏具部門・木地(きじ)の伝統工芸士、雁瀨敏彦さん(62)は「職人がそれぞれ、一つ一つ心を込めて仕事をしていることに感銘を受けた。〝京もの〟を大切に受け継ぎたいと、決意を新たにした」と語った。

全員が工程全般学ぶ

 京仏壇・京仏具は1976(昭和51)年、国の伝統的工芸品に指定された。伝統仏教教団の総大本山がひしめく京都で、仏教信仰への尊敬の念に裏打ちされた確かな技術力を育んできたことが高く評価されている。名称は、特許庁の地域団体商標制度=用語解説=に基づき、京都府仏具協同組合に加入しなければ使用できないという。

 組合には、2019年4月現在で156人が所属。組合員は、さまざまな職人を束ねて製造・販売に携わる「商部」と、伝統工芸士の資格を持つ職人を中心とした「工部」に分かれる。

 商部については、各工程を熟知した専門家を「京仏ソムリエ」として認証する組合独自の制度を15年に創設。工部についても、工程全般について学ぶよう促してきた。

 組合主催の研修は年1回だが、今年は8~11月に計10講を開講。中でも、今回のような部門研修に力を入れており、半数の5講を費やす。

実技研修は対面で

 現場に根差した学びも大切にしている。

 一連の研修では「実技研修」として、4日間の木彫実習を京都市勧業館(みやこめっせ、京都市左京区)で実施。6人が参加し、仏具全般に使われる文様「宝相華唐草(ほうそうげからくさ)」の飾り(幅25センチ、高さ10センチ、厚さ1・5センチ)を彫刻刀で彫り進めた。

京仏具研修・実技

対面による実技研修。職人の手ほどきを受け、彫刻刀を使った木彫を体験した

 彩色職人の給田麻那美さん(35)は「他の職人の仕事に触れる機会がほとんどないので、勉強になった。職人同士がリスペクトし合える機会にもなる」と、充実した笑顔を見せた。

 指導に当たった木製仏具部門・木彫の伝統工芸士で組合理事の中井伸明さん(57)は「実際に体験してもらうことで、商部はセールスポイントを強調できるし、工部は自分たちの工程に生かせる。見た目だけでは分からない京仏壇・京仏具の細やかな部分に気付けるのが、実技研修のいいところ」と語った。
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【用語解説】伝統工芸士
 経済産業大臣が指定した伝統的工芸品の振興に努める職人に与えられる公的資格。一般財団法人伝統的工芸品産業振興協会が認定する。産地で12年以上の実務経験があり、実技・知識・面接の各試験に合格することが必要。伝統工芸品236品目の約3900人が認定されている。

【用語解説】地域団体商標制度
 地域名と商品(サービス)名を組み合わせた名称の商標登録について、要件を緩和する特許庁の制度。地域ブランドの保護と地域経済の活性化を目的に、2006(平成18 )年に導入された。地域に根差した団体が出願し、団体の構成員に使用させる必要がある。

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