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「マスク着用徹底」を呼び掛ける白々しさ

※文化時報2020年12月12日号の社説「マスク徹底でいいのか」の全文です。

 タクシーの乗客がマスクをしない場合、運転手は乗車を拒否できるとする「運送約款」を、国が東京都内や京阪神の一部事業者に認可した。さまざまな事情でマスクを着用できない人が利用をためらうことになりかねず、公共交通機関の対応としては疑問が残る。

 運送約款は、事業者があらかじめ定めておく乗客との契約事項。道路運送法に基づき、国土交通大臣の認可を受けなければならない。ここに記載のない、理由なき乗車拒否は同法違反罪に問われ、100万円以下の罰金が科される。

 今回は、マスクを着用しない乗客を合法的に拒むための認可である。新型コロナウイルス感染拡大の第3波が到来する中、酒に酔ってマスクをせずに大声で話す乗客がいることに、運転手が不安を抱えているためだという。

 運転手を感染から守るために、何らかの対策を講じなければならないのは確かだろう。高齢で基礎疾患のある人が目立つ業界だけに、なおさらである。だが、だからと言って、タクシーを本当に必要とする人々を排除することがあってはならない。

 国土交通省は、運送約款の内容を、①運転手がマスクを着用していない理由を丁寧に聞き取った上で、②病気など正当な理由がない場合に限り、マスクの着用をお願いすることを基本とし、③それでも正当な理由なく、マスクを着用しない人についてのみ乗車をお断りする―としており、事業者が①~③の手続きを丁寧に踏むよう取り組むとしている。

 「マスク未着用者の乗車を一律にお断りするものではない」という説明はもっともだが、たとえそうだとしても、国が乗車拒否にお墨付きを与えるというやり方はいただけない。

 知的障害のある人や認知症の人には、マスクを着ける理由が分からず、外してしまうケースがある。「感覚過敏」で、マスクを着けられない人もいる。乾燥する季節となり、肌荒れに苦しんでいる人も多かろう。

 こうした人々や付き添いの家族にとっては、〝マスク警察〟から身を守るため、通院などで外出する際も人目をはばからざるを得ないことが容易に想像できる。簡単にタクシーに乗せてもらえないことが、どれほど心理的な負担になるのかに思いをはせる必要がある。

 タクシーは、鉄道やバスの運行がない地域でも住民の移動手段となり得るため、「最後の公共交通」とも呼ばれる。事業者と国交省には、その使命を放棄することがないよう求めたい。

 宗教専門紙らしいことを書けば、今回の一件は宗教界にとって他山の石とすべきかもしれない。マスク着用の徹底を呼び掛ける宗教施設は多いが、事情があって着けられない人への配慮は十分だろうか。機械的で画一的な表現は、改めた方がいい時期に来ている。

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