文化財を活用した観光コンテンツの造成を成功させるために必要なこと

※写真と本文は関係ありません。

最近、文化財を観光資源として利用する取り組みの一環として、各専門家のアドバイスを受けての計画づくりが各地で進められている。今回、ラボとして観光コンテンツ造りのコンサル業務に応募するための企画書づくりに携わる機会を得たため、かつての経験も踏まえて事業の取り組み方と「成功」させるために必要なことについて書いてみたい。


1.仕様書について

コンサル業務の仕様書に書かれていたのはおよそ以下のとおり。
①関係者向けの講演会の開催、事業説明、相談会の開催
②観光コンテンツに向けた事業計画策定希望者の募集
③専門家(事業化、文化財、経理などの各分野)によるアドバイス、ワークショップ等の開催
④事業化に向けた計画策定
※委託期間は、6月から翌年3月まで。


2.講演会の開催支援

①の講演会については、文化財の観光コンテンツ化に取り組んだ成功事例を紹介できる講師の提案が求められている。

これまで国により観光コンテンツ化についてのモデル事業が行われオンライによる報告会なども開催されている。そこでは様々な事例が紹介されているが、「成功」している文化財がどれほどあるのであろうか。「成功」つまり作られたコンテンツが文化財の「本質的価値」をとらえ、「継続」して販売され、その売り上げが文化財の「維持」のために「適切」に利用されているのか、ということである。予算があるので「実験的」やってみた取り組みがあたかも「成功」したかのように紹介されているケースも少なくない。そういう意味において成功事例を紹介できる人材は非常に限られている。

学識経験者や民間の専門家らよる講演も必要だが、それよりも実際に文化財の保存のため、現場で日々試行錯誤しながら頑張っている方々からの生の声の方が何倍も価値がある。


②については、応募用紙の作成を支援し、文化財の所有者・管理者、関係組織などへの送付すること、そして応募の受付・補足調査が求めてられる。

応募要領は作成次第であるが、半年で計画をつくり、来年から販売できるのは組織ができている法人や地域をづくり団体、行政、財団法人などで、人的にある程度余裕のある組織にに限られる。

しかし、自ら文化財の維持に必要な予算を確保する必要があるのは、日頃集客ができていない個人や地域が管理する文化財だ。私の住んでいる地域でも文化財を公開しているのがやっと、商品化できる人的余裕はない、という文化財が多数を占めている。そうした文化財こそ観光コンテンツ化のモデル事業に手を挙げられるような募集内容とする必要がある。

応募のあった文化財は、補足調査を行い意見を付して事務局に報告することになっている。モデル事業としてふさわしいかどうかを選考するため、とのことのようだが、集客できそうな文化財だけでなく、あまり知られてない文化財についても事業として取り上げ、専門家がきちんとサポートして「結果」を出してみせることが必要である。


3.専門家派遣支援

③について、専門家を提案すること、専門家によるアドバイスを最低2回は受けること(コンテンツ作り、経営、文化財の各分野についてそれぞれ2回程度)、必要に応じてワークショップなどを開催するようことが求められている。

専門家は、計画策定希望者がどのような観光コンテンツにしたいか、により変わってくる。著名な方を提案すれば、見た目にはいい企画書にはなるが、必ずしもいい結果になると限らない。全く門外漢の専門家、強引に自分の得意分野に持っていこうとする専門家などにあたると、やりたくもない事業を強いられ、後々長続きしないことになってしまう。また、そうした専門家は誘致にかなりの経費がかかり、予算がなくなると途端に関係が途切れてしまう。自費で支払える範囲で委託でき、自立できるまで寄り添ってくれるくれる専門家を誘致するのが「成功」への近道である。

また、半年の間(実質3か月)に2回のアドバイスで実務的な計画ができるかどうかは疑問だ。これまでの経験からして、専門家として信頼を得るのに少なくとも半年、コンテンツの内容が決まるのに半年、準備期間に一年、計二年は少なくともかかる。わずか半年で計画を策定し、来年から商品化するのは現実問題として無理である。こうしたやり方は、行政や専門家、コンサルタントに対する不信感が残るだけである。

文化財の所有者・管理者は所詮ビジネスの素人である。専門家がいくらサポートすると言っても、現場で動くのは情報発信手段も持たず、接客もしたこともない地域の高齢者たちだ。彼らの関心ごとは文化財保護や観光コンテンツ化ではなく、毎年決められた行事をいかに継続していくか、ということにしかないということをよくよく理解しておく必要がある。


4.計画の策定支援

④について、計画作りは文化財の所有者・管理者を中心に、事業化、経営、文化財の各分野の専門家の意見を踏まえて行われ、次年度から商品化することが求められる。

かつて文化財を活用するための計画作りにあたり、地域を主体としたNPO、レストラン経営者、行政の3者で地元の商工会が主催する経営セミナーに参加し、それぞれに事業計画をつくった。それらをまとめて施設全体の事業計画としてまとめ、現状変更申請許可を得て事業に着手した。

施設のコンセプトを理解した関係者らの地道な努力で、文化財の認知度も徐々に上がってきた。客層は比較的若者が多く、周辺エリアからのリピーター客を獲得することもできている。レストランは当初は赤字だったが、3年目でようやく黒字化した。廃屋同然だった施設は今や文化財として適切に維持され、地域の拠点施設になっている。本来目指すべき取り組みはこうしたやり方ではないか。文化財を活用するための事業化には経験上、準備期間を含め最低2年はかかると考えた方が良い。

今回の事業に与えられた期間は実質6か月で、専門家による指導もわずか2回。そうしてつくる計画は形ばかりのものにしかならないだろう。ましてや他人に作ってもらう計画では、実効性がともなったものになるかは疑問だ。以前同じような手法で計画を作りをサポートしたことがあるが、門外漢の行政担当者の指示に従わざるを得ず、結果的に見た目が変わっただけで、今日集客ができる施設にはなっていないのが現実である。

支援事業は次年度以降予算がなくなり自立していくことが求められる。支援を受けて始まった事業は1年経過するころにはモチベーションが下がりはじめ、3年でマンネリ化し、5年が経過するころには事業の継続が困難になっていく。行政や専門家は立ち上げた責任上、文化財の所有者・管理者にどう寄り添い事業をサポートしていくのか。とりわけ、文化財を指導する立場にある行政の役割が重要となる。


5.まとめ

文化財は良くも悪くも所有者・管理者、地域の努力によって守られてきた。これからは文化財とて観光コンテンツとして利用し、財源を確保していかなければ維持できなくなることは明らかなことである。しかし、そのやり方を間違えれば、文化財の本質的価値を損ない、これまで保たれてきた仕組みまでも壊してしまうことになる。文化財の積極的な活用を推進する立場にある行政としては、予算ありきな安易な民間委託ではなく、みずからも人材を育成し、適切かつ継続的に支援できる体制をつくる覚悟で望まなければならない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?