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Hempel Award 2021 優秀賞 ワイヤブットリー ナッチャワー

2021年、ポストパンデミック時代のコンテストとして、オンライン応募とリモート審査会を採用し「持続可能な発展」を解き明かしたヘンペルアワード。16の国と地域から977件の応募があったという中から選ばれた、文化服装学院の3人に制作の背景を訊きました。旅するちょうちょからインスピレーションを得た、ワイヤブットリーさんのストーリーから。(2021/07/12)

ーヘンペルアワードに応募しようと思ったきっかけを教えてください。

アパレルデザイン科2年生の時の担任の先生から、応募用紙をもらったのがきっかけで応募しました。「こんな機会あんまりないから、出した方がいいよ」って言われて。単純な動機というか。背中を押されたというか。海外コンテストなんて、目標が高すぎて考えたこともなくて、それがなかったら出そうと思わなかったと思います。英語で応募用紙を書いて、修了制作で描いたデザイン画3体と、ポートフォリオに入れるために描いていたデザイン画の中から、自分の好きな2、3体を抜粋して、合わせて出しました。

3体のデザイン画

ー国内のコンテストは出していましたか?

学内のソアロンデザインコンテストに通って、制作はしました。結局、賞はいただけなかったんですけど。

ー今回一次審査を通過した3人はみんな同じクラスだったんですよね。

みんな同じクラスです。去年も今も同じクラスですね。奇跡ですよ。

ー今回の作品のテーマは何でしたか?

自分のテーマが「Psyche」、ギリシャ語でプシュケ。ギリシャ神話に出てくるお話で、自由自在に羽ばたき、旅をするという意味を込めて、ちょうちょをイメージしました。ちょうちょを色々リサーチしていたときに、実際に何千kmも、海も超えて、いろんなところに旅をするアサギマダラというちょうちょが存在しているのを知って、面白いなと思いました。当時の自分を当てはめた時に、これから先、旅をするために、いろんなことを求めたり、調べたり、努力したり、将来に向けて道を辿っていくわけじゃないですか。今の自分にぴったりだなぁと思って。それが始まりですね。

昔からちょうちょっていう昆虫にどこか惹かれる部分があって、自由に飛び回って、色や模様も綺麗じゃないですか。それでいつか、ちょうちょというテーマで、作品を制作できたらなって思ってて、それを修了制作に持ってきました。ちょうちょの要素を入れようと思った時に、サナギとか蚕から成長過程を作っていけば面白いんじゃないかと思って、所々、繭みたいなのをイメージしたり。ちょうちょの翅(はね)とか、道や地図とか、そういうディティールを取り入れながらデザインしていきました。

ひとつの大きな作品に見えるかもしれないんですけど、ストールだったり、タイトスカート、トップス、ジャケットなど、ひとつひとつアイテム別になっています。それぞれのアイテムで着ることができるし、それが集合したらこういうルックになるという、リアルクローズと掛け合わせた作品です。

ーファイナリスト発表が2月上旬で、作品を中国に発送したのが3月上旬。約1ヶ月の制作期間でした。

修了制作1体を作り終わったと思ったら、そのままコンテスト制作という流れでした。作品だけじゃなくて、ルック撮影や映像も必要で。コンセプトに合う15秒間のプロモーションビデオやウォーキング映像とかも撮ったりして。私、スケジュールを組むこと自体苦手なんですよ。しかも今回はスケジュールがパンパンすぎて、こんな大変なことある?!って。過酷でした。朝学校に来て、ずっと教室でやって、お昼食べて、夕方ギリギリまで残って作業してましたね。先生からのアドバイスを直接いただけるので、作品はほぼ学校で、家に持って帰れるものだけ持って帰って、また学校に持ってくる、みたいな。今回は作品を送らないといけなかったのでハードスケジュールでしたね。案の定、税関で止まってしまって。インボイス(貨物明細書)を書かないといけないんですけど、それも英語で。マテリアルとか分かんないよー!って。

制作途中の素材たち

ー応募書類も英語でしたよね。海外コンテストは言語がひとつのハードルかもしれません。

Google翻訳を使いました。コンセプトは書く欄が狭くて長々と書けないので、伝わりやすく要約したものを翻訳しました。あと名前や生年月日などのプロフィールと、学歴みたいなのも書いて送りましたね。

ー最終審査のプレゼンはどうでしたか?リモートだったんですよね?

リモートです。プレゼン、ド緊張だったんですけど、20分くらいありました。あちらに審査員の方が10人くらいいて、現地のモデルさんが着てくれて、映像やプロモーションビデオを流して、コンセプト説明、各ルックの質疑応答。日本語通訳してくださる方とは、2、3日前からWechatで連絡を取って、プレゼンの内容を送って、当日はそれを自分が日本語で喋って、中国語に通訳してもらいました。世界各国のファイナリストがそれに参加してるんですよ。順番が割り振られていたんですが、いきなり自分の番が来て、焦りましたね。

ーファイナリストに選ばれたのは31人でしたね。他のファイナリストも自分以外のプレゼンを見ているんですか?

時間帯に分けられてはいるんですけど、私の時は日本と全然違う時間帯の方もいて、みんな絶対夜中でしょ、早朝でしょ、みたいな中で受けてました。外の明るさが違うんですよ。日本と中国は時差1時間ですけど、地球の裏側は今何時なんだろう?!と思ってました。今のご時世だから仕方ないんですけど、本当は中国行きたかったね〜ってみんなで言ってます。

ー1番大変だったことは何でしたか?

土台からデザインを当てはめていくことの難しさ、大変さですかね。身体から離れてるデザインが好きで、土台作りで時間を取られることが多いんです。友達にお願いして助けてもらいつつ進めました。

ボディに着せながら制作していく

浮いているパーツはストッキングに綿(わた)を詰めてソーセージみたいに作っています。手をつけやすい簡単なものから始めて、次は身頃とか、チュール付けるとか。これをやりつつ、あっちもやる、みたいな同時進行で色々進めないといけなくて。全てが大変でしたね。

ー気に入ってるところは?

ストールが気に入ってて。このルックが好きです。最高に可愛い。後ろがギャザーになっているんですが、まつり縫いが大変でしたね。細かいところはミシンじゃ行き届かないじゃないですか。なので、手でまつっています。

ちなみに、着せつけの動画はちゃんと作った方がいいと思います。現地に行けたら自分で直接指示できると思うんですけど、私の作品もショーの時の着せつけとは違っていて。事前に言ったんですけど、着せ方が難しいのもあって、伝わっていなかった。伝えることは大事です。

ー文化服装学院に入る前、どういうきっかけでファッション目指しましたか?

元々服が好きで、昔からおしゃれをすることが好きだったんです。原宿系でド派手な感じだったんですよ。服を学びたいって思ったのは、高校2年生の秋頃に東京コレクションのインビテーションをいただける機会があって、メンズブランドのショーを見に行って、服ってすごい、って感銘を受けたのがきっかけですね。そこから服への興味と意識が高まって、毎シーズン東コレも見に行ってました。文化を知ったきっかけは、高校2年の冬、友達と将来の話をしてた時に「文化行きそうじゃない?」って言われて、「文化って何?」って。ちょうど高校の先輩が文化に行っていたこともあって、それから詳しく調べて「自分はここだ!」って思って文化に決めました。服を作りたいっていう単純な動機です。夢というか、やりたいことを職業にしたくて、どうしても。最初は古着のバイヤーとか、そういうのもいいなって思ってたりしたんですけど、やっぱり服作りたいって気持ちが大きくなりました。

ー今はアパレルデザイン科の3年生で最終年次。これからどうしたいっていうのはありますか?

高度専門士科の4年生に編入しようと思っています。もっと服について深めたいっていう気持ちが、3年生に進級した時から強くなってて、自分の中でもっと深められるところがあるんじゃないかって可能性に賭けて。コロナじゃなかったら、卒業してフランスに留学しようと思っていました。

ー今後、コンテストを目指す人にメッセージを。

コンテストって面倒くさい、出さなくていいや、と思うかもしれないんですけど、やってみなきゃ分からない。出さないより出した方が絶対いいと思います。通るか通らないかなんて分からないけど、通った時の嬉しさがハンパないと思う。それを味わって欲しい。その後は、その幸福から一気に制作期間でどん底というか、寝る間も惜しんでやるのが大変だし、参っちゃう時もあると思うんですけど、それも一つのいい経験だなって思ってもらえれば。普段の学校の授業のカリキュラムの中では習わない技法とかもあるんですよ。体験できないことが体験できるわけなので、頑張ってください。作品が出来上がっていく時の高揚感とか、そこでしか味わえないと思うし。結果はどうであれ、自分の中で納得できる作品ができたらそれでいいんじゃないかな。自信を持って応募して欲しいです。

HEMPEL AWARD China International Young Fashion Designers Contest
主催:中国ファッション協会、ヘンペルインターナショナルグループ
開始年:1993年
開催地:中国・北京
応募資格:35歳以下、国籍・居住地不問、チーム不可
応募作品:テーマに沿った創造的なコレクション4~5体
提出作品:着色デザイン画
賞:金賞(1 名)賞金 50,000中国元(約 79 万円)北京から日本への往復航空券、1 週間北京観光
銀賞(2 名)賞金 20,000中国元(約 31 万円)北京から日本への往復航空券、1 週間北京観光
銅賞(2 名)賞金 15,000中国元(約 23 万円)、その他賞あ


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