Hempel Award 2022 企業賞 伊藤楽葵
ーヘンペルアワードに応募した理由を教えてください。
ヘンペルアワードは、去年受賞した文化の先輩もいたので比較的挑戦しやすく、プレゼンテーション審査があるコンテストだったので応募しました。国内のコンテストにも応募していて、「日暮里ファッションデザインコンテスト」では受賞できなかったんです。その結果に納得がいかなくて。どうせだったら、ちゃんと服を見てもらって、自分の言葉で説明して、ジャッジして欲しかった。海外のコンテストはポートフォリオやプレゼンテーションの審査があるので、そういうところで挑戦したかったんです。
ー「ナゴヤファッションコンテスト2022」のファイナリストにもなっていましたよね。コンテスト活動が活発なのはどちらかと言えばアパレルデザイン科で、アパレル技術科では珍しいと思うのですが、コンテストに挑戦しているのはなぜですか?
作ったものを、どこかで発表して人に見せないとダメだなっていうのは、ずっと思っていました。誰かに見てもらって初めて作品として成り立つし、誰かに見てもらいたいっていうのがあったのかもしれないです。入学以来ずっとコロナだったので、制作して、スマホで写真を撮って、先生に送って課題終了みたいな感じだったんです。コロナの前って、ファッションショーや発表会があったと思うんですけど、僕たちはそれがなかったので。
僕は単純に服が好きなので、ちゃんと生地を使って、ちゃんと服の形になる段階を踏まえた上で、アートと結び付けたりしたい。デザイナーになりたいからこそ、仕立て方や技術は絶対に必要だなと思って、アパレル技術科を選びました。確かに、僕がやるまでコンテストなんてクラスで話題にすら上がりませんでしたね。
ー伊藤さんのテーマが「Constrain and release parts of the body(身体の拘束と解放)」でしたが、ヘンペルアワードが設定したテーマやサステナビリティと関連させていますか?
後付け感があるのと、自分が100%やりたいものというよりも、コンテスト受けする方にシフトした感はあります。過去の受賞作品を5〜6年くらい見漁って、せっかく日本から中国のコンテストに参加する意味を考えて、そのテーマに決めて出しました。
ーテーマについてもう少し詳しく教えてください。
日本の「結び」の文化、例えば神社のおみくじとか、結婚式の水引とか、結び方によって気持ちを伝えること。そこから派生していって、首長族とか、世界中のいろんな国の、自分の身体を変化させてまでおしゃれに見せる風習。それが合致した瞬間があって、ポートフォリオに3、4枚入れて提出しました。
ーデザイン画は、さまざまなシルエットの5体ですね。
最終審査会ではデザイン画と実物が違うって突っ込まれたんですよ。それは僕自身も分かってて。一次審査に通りたい一心ではあったんですけど、まさか通るとは思ってないから、デザイン画の時点ではどう作るか全然決めていなくて、通ってからどういうふうに表現しようかと考えたからです。
「結び」のイメージから、マクラメを取り入れたり、紐をたくさん使いました。紐の扱いも大変でしたね。ニットも試してみたんですが、雰囲気が優しくなりすぎちゃってボツになったり。5体を2ヶ月もないくらいの期間で制作しました。手伝ってくれたクラスの子たちには頭が上がりません。
ーいきなり締切が1週間くらい早まったりもしたそうですね。短い制作期間の中でも、こだわった部分はありますか?
作品を発送するので、シワになりやすい生地は使いたくないなとか。紐を結構使ってたので、結んだ状態で固定したりとか、自分が現地で着せつけできないことを考えて作っていたところはあります。誰が着せても、自分の意図したシルエットになるように。ナゴヤもそうだったし、他のコンテストもそうだと思うんですけど、リハーサルの時に指示は出来ても、本番は何もいじれないので。そこは大事だと考えました。
ー制作時のルールみたいなものはありますか?
1日で作らないようにしています。どんなにやる気や勢いがあっても、作り切らない。
ーひと晩置いて、作品を客観視したい?
それに近いかも。ひと晩どころかもっと置きます。ヘンペルの時も、完全に1体作って次っていうよりは、並行して考えたりリサーチしながら制作しました。今までは1着作って終わりとか、せいぜい2着。コンセプトを決めて、カプセルコレクションを作る機会がなかったので、ちゃんとひとつのコレクションになってるかなという心配はありました。
ーオンラインでの最終審査会はどうでしたか?
手応えはマジでなかったですね。他の人のプレゼンも見ていたんですが、作品のレベルも高いし、資料を作り込んで画面に映したり、テキスタイルを持って見せたり、みんなすごく上手くて。僕は何もそういうものを用意していなかったので。最初の5、6分で自分のコレクションについて話して、その後、質疑応答。僕は応募した理由を聞かれました。
本音を言っちゃうと、やっぱり現地に行きたかったです。オンラインでのプレゼンも、バイトの面接みたいな感じなのか、どういう温度感で行ったらいいのかも分からなかったし。通訳の人がいるとはいえ、伝えきれているかなって不安はありました。
ーファッションに目覚めたきっかけは?
僕、アニメで育ってきたんで、最初はコスプレですね。コスプレというか、黒いコート着てるかっこいいキャラがいたら、その服が欲しいみたいな。キャラに近づきたいという気持ちに近かったと思います。所謂、中二病なんですけど。もともとモノづくりは好きで、絵画教室に通ったりもしていました。
ー文化服装学院へはどうして?
地元は新潟なんですけど、田舎で、両親もアパレル関係でもないですし、自分で検索したらヒットして。大学受験の勉強もしてたんですけど、精神的にまいっちゃって、ちょっと逃げ道でもあったんですよね。今思えばこっちで良かったです。
ー今後コンテストに挑戦する人へ、アドバイスはありますか?
フィッターの人に着せつけてもらうことを考えて作った方がいいよっていうこと。複雑すぎると着せつけられないので。あと、意外と何回もフィッティングやリハーサルをするので、丈夫に作るに越したことはないですね。コンテストって聞くと、頑張っちゃうんですよ。見栄え重視になっちゃうんです。いかに他の人と違うものを作れるかみたいな。そこばっかり行き過ぎちゃうと、着ていて痛い服を作っちゃったりとか、重くてモデルさんが歩けないとか。いい感じにバランスをとるのが大事だと思います。
海外コンテストの参加者が増えると嬉しいです。友達が通って自分が落ちた時が一番悔しい、そういう闘争心というか競争があった方が、僕は燃えるタイプなんで。仲間もできます。ヘンペルは今年オンラインでしたけど、リアルで参加できるようになればファイナリスト同士も会えますし、コンテストの話ができる友達とか、刺激しあえる機会になったと思います。海外コンテストやったほうがいい。間違いないです、これは。
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